『黎明』

2006年5月7日 文章
第五話「黎明の終わり」

「・・・・・・ということさ。」
弟たちの説明は深夜にまで及び、気が付けば日付が変わっていた。まぁそんなことは些細なことだ。弟たちが話していた、その内容に比べれば。
「『現代の魔法使い』に『古代の魔法使い』か・・・・・。妙なことをやっているな。」
「すごいねぇ。」
相棒がのほほんと言う。何がすごいんだか。
「とにかく、俺らは理事長から直々に依頼されているわけだ。」
「生徒からも頼まれたし。先生の中でも一部のヒトは知ってるはずなんだけどね。」
「一部以外のが怖気づいて相談したんだろうな。情けない話だよ。」
やれやれ、などといいながら弟が肩をすくめた。弟の友人はくすくすと笑う。
「というわけで、こっちも依頼されて来ているんだ。引き下がれと言われても引き下がらないからな。」
「それに、俺たちは専門だし。」
「そう言われても、こっちも仕事だしな。」
専門じゃないし、正直言って本物の怪奇現象だったら『除霊してもらえ』としか言えないがな。けど、一応プロとして、仕事を請けた以上はこなさないと。
相棒がぽむ、と手を打った。そして、清々しいほどの笑顔で
「一緒にやればいいんじゃない?」
とか言いやがった。俺としてはあまりやりたくない。一応この職業のことは、弟には秘密にしていたんだが。
「まぁ手伝ってもらえばいいじゃない。どうせまだまだやることあるんだから。二人で回ると、明日がつらいよ。・・・・・って、日付的には今日か。」
「それもそうか。」
二人はあっさりと了承してしまった。いいのかよ、おい。
「それじゃ、行こうか。」
「次はトイレだったよな。やっとこの蝋燭の出番だ。」
「蝋燭?」
「あ、どうせなら二手に分かれようか。二人がかりでやらないといけない所は最後に回すつもりだったし。」
「そうだな。じゃ、蝋燭頼んだ。」
「うん。後で落ち合おう。」
「行こうか兄貴。」
「行くよ兄貴。」
結局、二手に分かれることになった。蝋燭で何をするつもりなのか、気になったんだけどな・・・・・。
「で、何処に行くんだ?」
「情報室。俺としては楽な所だから、兄貴がいても気にならないしな。」
言外に、戦力外って言われたようなもんだ。本人に悪気は無いのがタチ悪い。いちいち気にしていてもしょうがないので、脳内から情報を引っ張り出した。
「情報室・・・・・悲鳴が聞こえるってやつだったか?」
「そう。それと、ちょっとしたラップ現象も起きてる。」
「手伝うことは?」
「邪魔をしないでくれればそれでいい。無意味に驚いたり叫んだりしなければ言うこと無しかな。」
「・・・・・・お前、年々性格悪くなっていないか?」
何も無い、とだけ言えばそれで済んだのに。
情報室、と書かれた前で弟が足を止めた。そしてノブに手をかけ、開けようとするが鍵がかかっている。当たり前だよな。弟もそのくらいは予想していたようで、軽く頷くに留まった。そして、おもむろにポケットに手をつっこむと、数を数えるのも億劫になるほどの大量の鍵をぶら下げた鍵束が出てきた。鍵をいくつか触ると、すぐにその内の一つを摘まんだ。あっさりと鍵が開いた。
「それ、理事長に貸してもらったのか?」
「いや。これは俺のだ。」
「・・・・・・生徒全員が持ってるって事は無いよな?」
「そんな無防備な学校があったら見てみたいよ。」
どういう経緯で手に入れたのか、物凄く気になるが、今はおいとこう。
その部屋には、40台ほどのパソコンが並んでいた。当然のように電源は落ちている。
弟に続いて一歩足を踏み入れると、違和感を感じた。右のほうが少しピリピリする。従来の勘に従って、そちらを向いた。風を切るような音がした。認識するより早く、身体が反応した。弟に向かって飛んでいた何かを蹴り飛ばす。よく見れば、それは本だった。
「ポルターガイストか?悪化してるな。急いだ方が良さそうだ。」
そういうと、ポケットから何か機械を取り出した。青白く光るディスプレイが、闇の中で浮いている。
なんだか気味悪いな、と思うと同時に、部屋の総てのパソコンのディスプレイがいっせいに青白い光を放った。
ある種の美しさと、そして凄惨さを感じる光景。
「よし、終わり。」
「おい、いいのか?」
「何が?」
「何がって・・・・・。」
言いよどんでパソコンに目を向けると、画面はすでに元に戻っていた。
「・・・・・・は?」
「あぁ、あれのこと?あれは魔法がちゃんと発動したって言う合図だよ。いいから次に行こう。」
弟は気だるげに言う。こいつの言動には慣れたつもりでいたんだが。

「終わったな・・・・・。」
「ああ。終わったな。」
『古代の魔法使い』と共に終わったことを喜び合った。何かもう凄く疲れた。太陽がもう昇り始めている。
「あ、手伝ってくれてアリガトな、兄貴。」
一応、礼は言っておく。兄貴はめんどくさそうに片手を挙げた。
「帰ろうか。」
「ああ、帰ろう。」
今日はもうゆっくり休もう。そう決意を固めた。
ため息をつきながら迎えた町は、清々しいほど爽やかに黎明を迎えていた。

終わり。

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