手元の小さな紙を眺め、伊吹が口を開いた。
「そういえばさぁ、今日の感じのテストどうだった?」
「そういうこと言うなよ伊吹・・・・。」
駆け引きは、既に始まっている。
ジョーカー
机の上に無造作に、それでいてそれなりの規則性を持って打ち捨てられた紙片。
それらと手元の物を交互に眺め、ため息をついた。
スタートとしては、まぁなかなかだろう。
これからの駆け引きが重要だ。
メンバーは俺と中野、戸部、凍山、伊吹、森山と、三上。
単純思考な戸部はともかく、他は強敵ぞろいだ。
駆け引きで伊吹と張り合うのは無理だし、三上の表情を読み取る自信はない。
中野と凍山はそこそこ頭も働くし、ポーカーフェイスも、三上ほどじゃないけどできるだろうし。
森山は表情に出やすいし駆け引きもあまり得意じゃないが、ものすごい幸運の持ち主だ。
頭を働かせ、思考する間にも、机の上に紙片が放たれていく。
今は、全員が敵と言って過言じゃない。
慎重に中野の顔に目を向け、手を伸ばす。
そして、次は森山の顔を見ながら、行動を見守る。
森山だけが唯一、純粋に楽しんでいる気がする。
それを思うと、ここまで気合を入れる自分が滑稽だった。
紙の擦れあう音とパサ、という微かな音。
そして、他愛のないようで、実際は重要な道具となっている会話。
2本の指で摘まんだ紙片を見て、笑みがこぼれた。
そして、手元に残っていた一枚と共に、机の上に放り出す。
中野の苦悶の声が聞こえたが、それは勝利への喝采に等しい。
一息ついて、観戦者としてその様子を見守ることにした。
そうこうしているうちに中野も離脱した。
残るのは・・・・・伊吹と、戸部か。
奇妙な二人が残ったものだ。
たった二人だから、すぐに机の上の紙がかさんでいく。
伊吹は手を伸ばし、戸部の表情を眺めながら、右へ左へと指を躍らせた。
そして、にやりと笑うと、片方の紙を掠め取る。
「ああああぁぁあああ!」
戸部の絶叫が響いた。
伊吹が投げ出した紙片の上に、仲間はずれの一枚が、やけくそ気味に叩きつけられた。
カードに描かれた道化師が、哀れな敗者を笑っているようだった。
以上。
短いです。
でも、いい感じ・・・・かな。
「そういえばさぁ、今日の感じのテストどうだった?」
「そういうこと言うなよ伊吹・・・・。」
駆け引きは、既に始まっている。
ジョーカー
机の上に無造作に、それでいてそれなりの規則性を持って打ち捨てられた紙片。
それらと手元の物を交互に眺め、ため息をついた。
スタートとしては、まぁなかなかだろう。
これからの駆け引きが重要だ。
メンバーは俺と中野、戸部、凍山、伊吹、森山と、三上。
単純思考な戸部はともかく、他は強敵ぞろいだ。
駆け引きで伊吹と張り合うのは無理だし、三上の表情を読み取る自信はない。
中野と凍山はそこそこ頭も働くし、ポーカーフェイスも、三上ほどじゃないけどできるだろうし。
森山は表情に出やすいし駆け引きもあまり得意じゃないが、ものすごい幸運の持ち主だ。
頭を働かせ、思考する間にも、机の上に紙片が放たれていく。
今は、全員が敵と言って過言じゃない。
慎重に中野の顔に目を向け、手を伸ばす。
そして、次は森山の顔を見ながら、行動を見守る。
森山だけが唯一、純粋に楽しんでいる気がする。
それを思うと、ここまで気合を入れる自分が滑稽だった。
紙の擦れあう音とパサ、という微かな音。
そして、他愛のないようで、実際は重要な道具となっている会話。
2本の指で摘まんだ紙片を見て、笑みがこぼれた。
そして、手元に残っていた一枚と共に、机の上に放り出す。
中野の苦悶の声が聞こえたが、それは勝利への喝采に等しい。
一息ついて、観戦者としてその様子を見守ることにした。
そうこうしているうちに中野も離脱した。
残るのは・・・・・伊吹と、戸部か。
奇妙な二人が残ったものだ。
たった二人だから、すぐに机の上の紙がかさんでいく。
伊吹は手を伸ばし、戸部の表情を眺めながら、右へ左へと指を躍らせた。
そして、にやりと笑うと、片方の紙を掠め取る。
「ああああぁぁあああ!」
戸部の絶叫が響いた。
伊吹が投げ出した紙片の上に、仲間はずれの一枚が、やけくそ気味に叩きつけられた。
カードに描かれた道化師が、哀れな敗者を笑っているようだった。
以上。
短いです。
でも、いい感じ・・・・かな。
これは、馴れ合いであり騙し合い。
Fake
ある日、街中でばったりと『魔王』さんに逢った。
普段ならとても嬉しいんだけど、今は仲間がいる。
さて、どうしようか。
向こうはきっと・・・・・というか、絶対気づいてる。
俺の行動に合わせてくれるようだ。
とりあえず、折角だし挨拶くらいはすることにした。
「こんにちは。」
「ああ、久しぶりだな。」
「そうですね。」
「知り合いなのか?」
「なんかかっこいい人だね。」
「・・・・・・。」
他の仲間たちが気づかない中、一人だけ沈黙を護っていた。
そして俺は、あることを思いついた。
「うん。彼の保護者みたいな人で、何度か会った事があるんだ。」
『彼』―――――赤い髪の少年が何を言ってるんだ?と言いたげな目を向けてきた。
でも、『魔王』さんには通じたらしい。
「ああ。そいつは俺の息子のようなものだからな。」
その言葉を聴いて、少年が唐突に理解したように頷いた。
「ええ。その方は、俺を育ててくれた方です。」
「へぇ〜・・・・。」
仲間たちは納得してくれたようだ。
でも、じろじろ見たら失礼だと思うなぁ。
っていうか、流石に長く一緒にいるとばれちゃうかな。
「俺たち、買出しの途中なんで、またいつか。」
「ああ。」
「・・・・・・・・。」
「あ、君は行ってきていいよ。あとで、宿屋でね。」
赤髪の少年の背中を押すと、少年は驚きながらも駆け出した。
最後に『魔王』さんは軽く手を上げて、人ごみの中に紛れていった。
「あの人、なんだか不思議な人だったな。やけにカッコよかったし。」
「顔は関係ないんじゃないか?でも、あいつの育ての親か。どう育てたんだろう?」
「魔法とかはあの人が教えたらしいよ。」
「へぇ。」
とりあえず、嘘は言ってない。
仲間の単純さに、今は感謝した。
転移魔法を使って、住処に戻った。
やってきた臣下が俺の背後を見て驚いたような顔をする。
「おかえりなさいませ、陛下。そして、あなたも。」
「ただいまもどりました。・・・・・といっても、一時的に、ですけど。」
挨拶を終えたらしいのでとりあえず荷物を預け、適当に茶の支度をするよう頼んだ。
「世界を救う旅というのはどうだ?」
「そこそこ面白いです。陛下は・・・・・やはり、やる気はないのですよね。」
「人間というのもなかなか面白いからな。それに、どうせ何万年かすれば勝手に滅びるだろう。手を下すのも面倒だ。」
「凄く長期的に見てますね。」
「そうかもな。そういえば、ばれていないのか?」
「ばれてたら一緒に旅には出てませんよ。多分。あの人たちは単純でお人よしですけど、くだらない正義感が強すぎます。『勇者』さんは別にして。」
確かに、あれは歴代勇者の中でも特殊な方だろう。
少しだけ後ろを付いてくる赤髪の魔導士の頭に軽く手を置いた。
昔に比べれば、随分でかくなったものだ。
「騙し合いも頑張って来い。」
「騙し合いよりも馴れ合いのほうが大変です。」
どこか拗ねたようにいうその仕種がやけに子どもじみていた。
終わり。
一年間のお題「11 Fake」でした。
久々に勇者と魔王。
中途半端ですが、とりあえずこんな感じで。
Fake
ある日、街中でばったりと『魔王』さんに逢った。
普段ならとても嬉しいんだけど、今は仲間がいる。
さて、どうしようか。
向こうはきっと・・・・・というか、絶対気づいてる。
俺の行動に合わせてくれるようだ。
とりあえず、折角だし挨拶くらいはすることにした。
「こんにちは。」
「ああ、久しぶりだな。」
「そうですね。」
「知り合いなのか?」
「なんかかっこいい人だね。」
「・・・・・・。」
他の仲間たちが気づかない中、一人だけ沈黙を護っていた。
そして俺は、あることを思いついた。
「うん。彼の保護者みたいな人で、何度か会った事があるんだ。」
『彼』―――――赤い髪の少年が何を言ってるんだ?と言いたげな目を向けてきた。
でも、『魔王』さんには通じたらしい。
「ああ。そいつは俺の息子のようなものだからな。」
その言葉を聴いて、少年が唐突に理解したように頷いた。
「ええ。その方は、俺を育ててくれた方です。」
「へぇ〜・・・・。」
仲間たちは納得してくれたようだ。
でも、じろじろ見たら失礼だと思うなぁ。
っていうか、流石に長く一緒にいるとばれちゃうかな。
「俺たち、買出しの途中なんで、またいつか。」
「ああ。」
「・・・・・・・・。」
「あ、君は行ってきていいよ。あとで、宿屋でね。」
赤髪の少年の背中を押すと、少年は驚きながらも駆け出した。
最後に『魔王』さんは軽く手を上げて、人ごみの中に紛れていった。
「あの人、なんだか不思議な人だったな。やけにカッコよかったし。」
「顔は関係ないんじゃないか?でも、あいつの育ての親か。どう育てたんだろう?」
「魔法とかはあの人が教えたらしいよ。」
「へぇ。」
とりあえず、嘘は言ってない。
仲間の単純さに、今は感謝した。
転移魔法を使って、住処に戻った。
やってきた臣下が俺の背後を見て驚いたような顔をする。
「おかえりなさいませ、陛下。そして、あなたも。」
「ただいまもどりました。・・・・・といっても、一時的に、ですけど。」
挨拶を終えたらしいのでとりあえず荷物を預け、適当に茶の支度をするよう頼んだ。
「世界を救う旅というのはどうだ?」
「そこそこ面白いです。陛下は・・・・・やはり、やる気はないのですよね。」
「人間というのもなかなか面白いからな。それに、どうせ何万年かすれば勝手に滅びるだろう。手を下すのも面倒だ。」
「凄く長期的に見てますね。」
「そうかもな。そういえば、ばれていないのか?」
「ばれてたら一緒に旅には出てませんよ。多分。あの人たちは単純でお人よしですけど、くだらない正義感が強すぎます。『勇者』さんは別にして。」
確かに、あれは歴代勇者の中でも特殊な方だろう。
少しだけ後ろを付いてくる赤髪の魔導士の頭に軽く手を置いた。
昔に比べれば、随分でかくなったものだ。
「騙し合いも頑張って来い。」
「騙し合いよりも馴れ合いのほうが大変です。」
どこか拗ねたようにいうその仕種がやけに子どもじみていた。
終わり。
一年間のお題「11 Fake」でした。
久々に勇者と魔王。
中途半端ですが、とりあえずこんな感じで。
ブライトはあらゆる意味で凄いと思う。
いつかあんなふうになれたら、と思うときもある。
どうやったら、あんなふうになれるのだろうか。
その中身
いつものように練習をして、いつものように負けて、いつものように、俺は自分の手当てをしていた。
転倒したときに擦りむいた肘が痛い。
擦り傷は嫌いだ、大したことない割りに痛みは酷いから。
この身体だから、傷は早く治るだろう。
とはいえ、夜までに治すのは流石に無理か。
訓練用の木剣と、実戦で使う剣を眺めて、ため息をついた。
こんな弱い自分が、神殿長をお守りすることなんて出来るのだろうか。
激しい打ち合いの音に顔を上げてみると、先輩の剣士と、それを圧倒するブライトの姿が見えた。
俺と戦ったばかりだというのに、ブライトは疲れたそぶりも見せず、ただ闘争に浸って剣を振るっている。
先輩にも、時々勝てるくらいには腕を上げたと思ってた。
でも、ブライトや・・・・・悔しいことに、リィンにも勝ったことが一度も無い。
この先、勝てる、とも思えない。
それが怖かった。
肘がまた痛む。
痛み止めを強引に塗りつけて、立ち上がった。
「ブライト、もう一回俺と戦ってくれ!」
「ん?あぁいいぜ。」
ブライトは、からりと笑うと、木剣を肩に乗せ、手近なスペースを探し始めた。
ライトは何事にも全力でぶつかっていく。
まだまだ若い、と思ってしまうこともあるが、俺もまだそんなことを言えるような歳でもない。
何処までも真っ直ぐにぶつかってくるライト。
それは、剣の筋にも反映されている。
力もあるし、基本はしっかりしている。
だが、非常に読みやすい。
これはかなりの弱点になりうる。
読まれても問題が無いほどの腕があれば話は別だが、ライトはまだそこまではいってない。
そして、ライトは、実戦というモノを知らない。
ライトの剣が一瞬止まったのを狙って、剣を打ち下ろした。
「ま、さっきよりはマシかな。その隙が大きいのを何とかしないと、俺には勝てないぞ。」
飄々とブライトが言ってのけた。
手の痺れが取れない。
そして何より、さっきのブライトの姿が頭から離れない。
鋭い気迫と、殺気にも似た闘争心。
そして、浮かべた獰猛な笑みに、恐怖するしかなかった。
それでも、今はそれが嘘のように快活に笑っている。
怖い、でも、憧れる。
「どうやったら、ブライトみたいに強くなれるかな?」
飯を食ってる最中に、ライトが突然そんなことを言った。
成り行きで一緒に飯を食うことになったリィンは、そんなライトに呆れたような視線を送っている。
だが、ライトはそれには気づかない。
切羽詰ってるんだなぁと思いつつ、とりあえず口に含んでいたものを飲み込んだ。
「そりゃ、あれだ。実戦あるのみ。死ぬか生きるかの世界に飛び込んでみろ。多分すぐに上達するさ。・・・・・死ななければな。」
俺なりの答えを渡すと、ライトは顔をしかめた。
「怖いこと言うなよ。」
「忠告しといた方が、少しは『怖いこと』が避けられると思うけどな。」
「そりゃそうだけど・・・・・。」
ライトが言いよどんでいると、珍しいことにリィンが口を挟んだ。
「ブライト、一応ライトでも実践可能な方法を提示してやれ。」
「は?」
「何でだよ。俺には出来ないっていうのか?」
当然のようにライトが食って掛かる。
リィンは口元に、歪んだ笑みを浮かべた。
「お前は―――――『ライト』は確実に死ぬぞ。」
首を傾げるライトを視界の端で捉えながら、俺は理解した。
リィンの言いたいことを。
「・・・・・確かにそうだな。」
『ライト』は間違いなく死ぬだろう。
生き残ることが出来ても。
今の『ライト』は、きっと生きてはいない。
「お、俺・・・・・そんなに弱いのか?」
「いや、生き残る確率のことじゃなくてな・・・・・・まぁそれも高いとはいえないけど。」
思わず正直に言うと、ライトがしょげた。
でも事実だし、仕方ないだろう。
「ライト、お前、他人を殺して自分が生き残る、って迷わず選択できるか?」
「・・・・・・え?」
「生きるか死ぬかってのは、そういうことなんだよ。自分が、ってだけじゃない。相手もだ。相手の命を奪って、それでも自分が生き残ることができるか?途中で『自分に他人の命を踏み台にしてまで生きる価値があるのか』とか、考えないでいられるか?」
「それは・・・・・。」
「リィンくらい腕を上げれば、相手を殺さずに自分も生き残るくらいは出来るようになるけどな。それには技量も必要だし、それでも相手を容赦なく傷つける必要がある。お前にその覚悟があるか?生きる覚悟が。」
ライトはじっと俯いた。
少し言い過ぎたかもしれない。
とりあえず、慰めるか。
・・・・・・えっと、慰め・・・・・慰め・・・・・。
「ま、お前まだ若いんだし、そう悲観するなって!」
・・・・・とりあえずありきたりな言葉でもいいか。
「・・・・・そ、そうだよな。とりあえず、頑張るよ。幸いにも・・・・・というか、時間はあるし。」
「そうそう。」
とりあえず、ライトは元気を取り戻したらしい。
リィンはふと窓を見ると、席を立った。
「どうした?」
「そろそろイルが来る頃だ。」
「あ、本買いに行くんだったか?」
「ああ。」
そして、そのまま去っていく。
またな、とその背に声をかけても、答えもしない。
ライトがそんなリィンに何か言っているが、リィンは全く気にしていない。
本当に仲がいい。
食後の茶を飲み干して、まだ叫んでいるライトの肩を掴んだ。
そのまま力を込め、軽く捻ると絶叫と共に、ライトがおとなしくなる。
大丈夫、外してないから。
終わり。
『10 その中身』
あれ?タイトルと全然違う!
・・・・・えっと、ブライトの中身、ってことで。
勢いで書いたので、なんだか変です。
書き直したい・・・・・。
いつかあんなふうになれたら、と思うときもある。
どうやったら、あんなふうになれるのだろうか。
その中身
いつものように練習をして、いつものように負けて、いつものように、俺は自分の手当てをしていた。
転倒したときに擦りむいた肘が痛い。
擦り傷は嫌いだ、大したことない割りに痛みは酷いから。
この身体だから、傷は早く治るだろう。
とはいえ、夜までに治すのは流石に無理か。
訓練用の木剣と、実戦で使う剣を眺めて、ため息をついた。
こんな弱い自分が、神殿長をお守りすることなんて出来るのだろうか。
激しい打ち合いの音に顔を上げてみると、先輩の剣士と、それを圧倒するブライトの姿が見えた。
俺と戦ったばかりだというのに、ブライトは疲れたそぶりも見せず、ただ闘争に浸って剣を振るっている。
先輩にも、時々勝てるくらいには腕を上げたと思ってた。
でも、ブライトや・・・・・悔しいことに、リィンにも勝ったことが一度も無い。
この先、勝てる、とも思えない。
それが怖かった。
肘がまた痛む。
痛み止めを強引に塗りつけて、立ち上がった。
「ブライト、もう一回俺と戦ってくれ!」
「ん?あぁいいぜ。」
ブライトは、からりと笑うと、木剣を肩に乗せ、手近なスペースを探し始めた。
ライトは何事にも全力でぶつかっていく。
まだまだ若い、と思ってしまうこともあるが、俺もまだそんなことを言えるような歳でもない。
何処までも真っ直ぐにぶつかってくるライト。
それは、剣の筋にも反映されている。
力もあるし、基本はしっかりしている。
だが、非常に読みやすい。
これはかなりの弱点になりうる。
読まれても問題が無いほどの腕があれば話は別だが、ライトはまだそこまではいってない。
そして、ライトは、実戦というモノを知らない。
ライトの剣が一瞬止まったのを狙って、剣を打ち下ろした。
「ま、さっきよりはマシかな。その隙が大きいのを何とかしないと、俺には勝てないぞ。」
飄々とブライトが言ってのけた。
手の痺れが取れない。
そして何より、さっきのブライトの姿が頭から離れない。
鋭い気迫と、殺気にも似た闘争心。
そして、浮かべた獰猛な笑みに、恐怖するしかなかった。
それでも、今はそれが嘘のように快活に笑っている。
怖い、でも、憧れる。
「どうやったら、ブライトみたいに強くなれるかな?」
飯を食ってる最中に、ライトが突然そんなことを言った。
成り行きで一緒に飯を食うことになったリィンは、そんなライトに呆れたような視線を送っている。
だが、ライトはそれには気づかない。
切羽詰ってるんだなぁと思いつつ、とりあえず口に含んでいたものを飲み込んだ。
「そりゃ、あれだ。実戦あるのみ。死ぬか生きるかの世界に飛び込んでみろ。多分すぐに上達するさ。・・・・・死ななければな。」
俺なりの答えを渡すと、ライトは顔をしかめた。
「怖いこと言うなよ。」
「忠告しといた方が、少しは『怖いこと』が避けられると思うけどな。」
「そりゃそうだけど・・・・・。」
ライトが言いよどんでいると、珍しいことにリィンが口を挟んだ。
「ブライト、一応ライトでも実践可能な方法を提示してやれ。」
「は?」
「何でだよ。俺には出来ないっていうのか?」
当然のようにライトが食って掛かる。
リィンは口元に、歪んだ笑みを浮かべた。
「お前は―――――『ライト』は確実に死ぬぞ。」
首を傾げるライトを視界の端で捉えながら、俺は理解した。
リィンの言いたいことを。
「・・・・・確かにそうだな。」
『ライト』は間違いなく死ぬだろう。
生き残ることが出来ても。
今の『ライト』は、きっと生きてはいない。
「お、俺・・・・・そんなに弱いのか?」
「いや、生き残る確率のことじゃなくてな・・・・・・まぁそれも高いとはいえないけど。」
思わず正直に言うと、ライトがしょげた。
でも事実だし、仕方ないだろう。
「ライト、お前、他人を殺して自分が生き残る、って迷わず選択できるか?」
「・・・・・・え?」
「生きるか死ぬかってのは、そういうことなんだよ。自分が、ってだけじゃない。相手もだ。相手の命を奪って、それでも自分が生き残ることができるか?途中で『自分に他人の命を踏み台にしてまで生きる価値があるのか』とか、考えないでいられるか?」
「それは・・・・・。」
「リィンくらい腕を上げれば、相手を殺さずに自分も生き残るくらいは出来るようになるけどな。それには技量も必要だし、それでも相手を容赦なく傷つける必要がある。お前にその覚悟があるか?生きる覚悟が。」
ライトはじっと俯いた。
少し言い過ぎたかもしれない。
とりあえず、慰めるか。
・・・・・・えっと、慰め・・・・・慰め・・・・・。
「ま、お前まだ若いんだし、そう悲観するなって!」
・・・・・とりあえずありきたりな言葉でもいいか。
「・・・・・そ、そうだよな。とりあえず、頑張るよ。幸いにも・・・・・というか、時間はあるし。」
「そうそう。」
とりあえず、ライトは元気を取り戻したらしい。
リィンはふと窓を見ると、席を立った。
「どうした?」
「そろそろイルが来る頃だ。」
「あ、本買いに行くんだったか?」
「ああ。」
そして、そのまま去っていく。
またな、とその背に声をかけても、答えもしない。
ライトがそんなリィンに何か言っているが、リィンは全く気にしていない。
本当に仲がいい。
食後の茶を飲み干して、まだ叫んでいるライトの肩を掴んだ。
そのまま力を込め、軽く捻ると絶叫と共に、ライトがおとなしくなる。
大丈夫、外してないから。
終わり。
『10 その中身』
あれ?タイトルと全然違う!
・・・・・えっと、ブライトの中身、ってことで。
勢いで書いたので、なんだか変です。
書き直したい・・・・・。
『Which Do You Like?』
2006年6月17日 お題始まりは、こんな一言だった。
「神殿長はトマトとナスどっちが好き?」
『Which Do You Like?』
読んでいた本から目を離し、質問者の顔を眺めた。
少し伸びてきた黒い前髪の先にある深緑の瞳は好奇心に輝いている。
「どっちかっていうと、トマトかな。ナスも美味しいけど。」
「肉と魚は?」
「・・・・・俺、どっちもあんまり食べれないんだよ。小さいときに色々あって。」
思い出すだけで、泣きたくなってきた。
長くなりそうだなと思って、本に栞を挟み、近くの机に置いた。
予想通り、セイが次の質問を繰り出してきた。
「じゃ、甘い物と辛い物だったら?」
「甘いものの方がいいかな。少しくらいなら辛いのも平気なんだけど。」
答えながら、冷め切ったお茶のカップに手を伸ばした。
その間にセイから声がかけられた。
「それじゃ、ライトとブライト、どっちが好き?」
手がカップに触れる寸前で止まる。
セイの顔はやはり純粋な好奇心でいっぱいだった。
その傍で雑談していたライトとブライトの視線が、こちらに注がれた。
慌てふためくライトの横で、ブライトはおおらかに笑っている。
あれが人生経験の差なのだろうか。
とりあえず、回答を待ちわびるセイに向き直った。
「どっちも好きだよ。」
「どっちか選んで・・・・・ください。」
ライトに睨まれ、しぶしぶ敬語にするセイを可愛いなぁと思いながら、頭の片隅でどうしようか悩んだ。
どっちの方が好きとか、そういうのはあまり考えたことが無い。
というか、考えてもしょうがないと思っている。
「どちらにもそれぞれ良いところがあるし、決められないよ。」
「そうなの?」
「ライトはすぐに怒鳴ったりする困った癖があるけど、真っ直ぐで優しい子だよ。ブライトは戦うのが好きで、手加減忘れて稽古の相手に怪我させちゃうことも多いけど、ちょっとの事じゃ動じなくて頼りになるし。」
セイは頷きながらも、まだ腑に落ちないところがあるようだった。
「どうかしたの?」
「・・・・・神殿長、この前、俺が『一番好きな人は誰?』って聞いたら、『秘密』って言ったよね。」
「・・・・・・言ったっけ。」
本気で忘れてた。
慌てて記憶を辿ると、そういえばそんなやり取りをしたような気もする。
「『秘密』ってことは、いるんだよね。みんなだったら、ちゃんと『みんな』って言うはずだから、『秘密』って言ったって事は一人だよな?だから、その人だけ特別なのかなって。」
「・・・・・。」
まぁ確かに、間違ってはいない。
『特別』という点においては。
ただ、他の人とは『好き』の意味が違うというか・・・・・。
「お前ら、そこで何してるんだ?」
「あ・・・・・。」
見上げた先には、不機嫌そうな顔。
心なしか、呆れの色も混じっている。
「神殿長が好きな人誰かなぁって。」
「それなら後にしろ。」
「えー?」
「あ、そういえば本屋に行く約束だったね。行こうか。」
「・・・・・・やはり忘れてたな。」
「う、ご、ごめん。・・・・・セイ、後でね。」
「はーい。」
元気よく返事をするセイに背を向けて、先に歩き出してしまったリィンを追いかけた。
まだ気になっている様子のセイを連れて、訓練場に向かった。
隣を歩くブライトは、何か考え込んでいる。
「どうかしたのか?」
尋ねると、ブライトは暫く迷ってから、楽しそうに答えた。
「神殿長の一番好きな奴って、リィンだったりしてな。」
その途端、思わず訓練用の木剣を取り落とした。
固まった俺に対して、ブライトは笑いながら「冗談だ。」と告げる。
冗談に聞こえないから、やめてくれ。
終わり。
一年間で50のお題より、『09 Which Do You Like?』
予定とは全く違う物になりました。
本当はハザードも出ていて、『セイとハザードどっちが好きか?』というのにしようと思ったんですが、コレじゃ泥沼になりそうだと思って変更。
結局、誰が好きなのかはご想像にお任せします。
「神殿長はトマトとナスどっちが好き?」
『Which Do You Like?』
読んでいた本から目を離し、質問者の顔を眺めた。
少し伸びてきた黒い前髪の先にある深緑の瞳は好奇心に輝いている。
「どっちかっていうと、トマトかな。ナスも美味しいけど。」
「肉と魚は?」
「・・・・・俺、どっちもあんまり食べれないんだよ。小さいときに色々あって。」
思い出すだけで、泣きたくなってきた。
長くなりそうだなと思って、本に栞を挟み、近くの机に置いた。
予想通り、セイが次の質問を繰り出してきた。
「じゃ、甘い物と辛い物だったら?」
「甘いものの方がいいかな。少しくらいなら辛いのも平気なんだけど。」
答えながら、冷め切ったお茶のカップに手を伸ばした。
その間にセイから声がかけられた。
「それじゃ、ライトとブライト、どっちが好き?」
手がカップに触れる寸前で止まる。
セイの顔はやはり純粋な好奇心でいっぱいだった。
その傍で雑談していたライトとブライトの視線が、こちらに注がれた。
慌てふためくライトの横で、ブライトはおおらかに笑っている。
あれが人生経験の差なのだろうか。
とりあえず、回答を待ちわびるセイに向き直った。
「どっちも好きだよ。」
「どっちか選んで・・・・・ください。」
ライトに睨まれ、しぶしぶ敬語にするセイを可愛いなぁと思いながら、頭の片隅でどうしようか悩んだ。
どっちの方が好きとか、そういうのはあまり考えたことが無い。
というか、考えてもしょうがないと思っている。
「どちらにもそれぞれ良いところがあるし、決められないよ。」
「そうなの?」
「ライトはすぐに怒鳴ったりする困った癖があるけど、真っ直ぐで優しい子だよ。ブライトは戦うのが好きで、手加減忘れて稽古の相手に怪我させちゃうことも多いけど、ちょっとの事じゃ動じなくて頼りになるし。」
セイは頷きながらも、まだ腑に落ちないところがあるようだった。
「どうかしたの?」
「・・・・・神殿長、この前、俺が『一番好きな人は誰?』って聞いたら、『秘密』って言ったよね。」
「・・・・・・言ったっけ。」
本気で忘れてた。
慌てて記憶を辿ると、そういえばそんなやり取りをしたような気もする。
「『秘密』ってことは、いるんだよね。みんなだったら、ちゃんと『みんな』って言うはずだから、『秘密』って言ったって事は一人だよな?だから、その人だけ特別なのかなって。」
「・・・・・。」
まぁ確かに、間違ってはいない。
『特別』という点においては。
ただ、他の人とは『好き』の意味が違うというか・・・・・。
「お前ら、そこで何してるんだ?」
「あ・・・・・。」
見上げた先には、不機嫌そうな顔。
心なしか、呆れの色も混じっている。
「神殿長が好きな人誰かなぁって。」
「それなら後にしろ。」
「えー?」
「あ、そういえば本屋に行く約束だったね。行こうか。」
「・・・・・・やはり忘れてたな。」
「う、ご、ごめん。・・・・・セイ、後でね。」
「はーい。」
元気よく返事をするセイに背を向けて、先に歩き出してしまったリィンを追いかけた。
まだ気になっている様子のセイを連れて、訓練場に向かった。
隣を歩くブライトは、何か考え込んでいる。
「どうかしたのか?」
尋ねると、ブライトは暫く迷ってから、楽しそうに答えた。
「神殿長の一番好きな奴って、リィンだったりしてな。」
その途端、思わず訓練用の木剣を取り落とした。
固まった俺に対して、ブライトは笑いながら「冗談だ。」と告げる。
冗談に聞こえないから、やめてくれ。
終わり。
一年間で50のお題より、『09 Which Do You Like?』
予定とは全く違う物になりました。
本当はハザードも出ていて、『セイとハザードどっちが好きか?』というのにしようと思ったんですが、コレじゃ泥沼になりそうだと思って変更。
結局、誰が好きなのかはご想像にお任せします。
※『初夏色』の続きです
近所のスーパーで買った、なめこと豆腐、鮭と、ついでに安売りしていた卵と洗剤が入った、そこそこに重い袋を持って、我が家を目指した。地に墜ちる寸前の夕陽が、少し目に痛い。早く帰らないとまた弟に何か言われるかな。
そう思った矢先に、壁が立ちふさがった。さほど広くない道で、学生4人組が横に広がって、俺の前をノロノロと、お前はナメクジか?と思わず聞きたくなるほどのスピードで歩いている。たまにいるよな、こういう迷惑な奴。
うぜぇと思いつつ隙間に割り込んで強引に通った。そのうちの一人が文句ありげに声をかけてきたので、振り返って軽く睨む。俺は、もともと目つきは悪い方で、睨むと迫力があると弟がよく言っていた。そういうあいつが怯んだところなど見たことがなかったから最初はあまり信じていなかったが、歳を重ねていくうちに信じざるを得なくなった。たった今睨んでやった、弟と同じくらいの年代のガキは、身を縮めて小さく悲鳴を上げた。情けない奴だ。
こんな馬鹿どもにかまっている暇は無い。とっとと帰ろう。そしてソファにでも寝そべって、だらけてやる。
そんなことを心に決めつつ、急いで角を曲がった。
「兄貴、おかえり」
「あぁただいま。で、何でお前はそんなところにいるんだ?」
そんなところ―――――庭にぼんやりと突っ立っていた弟は、気だるげに「あぁ」と呟いた。
「今洗濯物取り込んで、たたんでたんだ。それで、たまたま外見たら夕陽がすごくて。それで、ちょっと昔を思い出したんだ」
「昔―――――?」
「そ。兄貴、覚えてる?昔、母親も父親も生きてた頃」
「まだ忘れるほど歳食ってないな」
いい思い出かと言われれば、必ずしもそうじゃないが。
「俺と兄貴がまだ小さい頃、何処かの原っぱにピクニックに行ったよな」
「・・・・・・そういえば、あったかな」
確か俺がまだ小学生だった頃。
「あの時、夕方頃に『そろそろ帰ろうか』っていう話になったよな?それで、父親が言ったこと、覚えてる?」
「いや・・・・・」
「え、憶えてないの?」
弟が露骨に嫌そうな顔をした。何でだ。
「じゃ、いいや」
「いや、気になるから言えよ」
「えー・・・・・」
弟はそれはそれはめんどくさそうにため息をついた。そして、暫く俺の顔を眺め、またため息をつく。幸せが逃げるらしいぞ。
「・・・・・・そろそろ帰ろうってことになって」
「ああ」
弟は暫く言いよどみ、それでも口を開いた。
「それで父親が『確か西に来たから、東に向かって帰ればいいんだよな』って言って、母親が頷くと同時に突然夕陽に向かって走り出したんだけど・・・・・・憶えてないの?」
・・・・・・思い出した。
「その後、すぐに母親にとっちめられてたな」
「思い出した?」
「バッチリと」
当時、自分の父親はこんなにも馬鹿だったのか、と思って暫く落胆したことまで思い出した。ついでに今も少し落胆した。
ふいに西の空を見ると、太陽の姿は見えず、光だけが微かに見えた。
「あ、そろそろ戻らないと」
「そうだな」
買ってきたものを早く冷蔵庫に入れないと。特に魚。弟は昔を思い出した余韻など全く無く、いつもの表情で玄関をくぐり、俺もそれに続いた。
<終わり>
何故か続きに。
微妙かな。
近所のスーパーで買った、なめこと豆腐、鮭と、ついでに安売りしていた卵と洗剤が入った、そこそこに重い袋を持って、我が家を目指した。地に墜ちる寸前の夕陽が、少し目に痛い。早く帰らないとまた弟に何か言われるかな。
そう思った矢先に、壁が立ちふさがった。さほど広くない道で、学生4人組が横に広がって、俺の前をノロノロと、お前はナメクジか?と思わず聞きたくなるほどのスピードで歩いている。たまにいるよな、こういう迷惑な奴。
うぜぇと思いつつ隙間に割り込んで強引に通った。そのうちの一人が文句ありげに声をかけてきたので、振り返って軽く睨む。俺は、もともと目つきは悪い方で、睨むと迫力があると弟がよく言っていた。そういうあいつが怯んだところなど見たことがなかったから最初はあまり信じていなかったが、歳を重ねていくうちに信じざるを得なくなった。たった今睨んでやった、弟と同じくらいの年代のガキは、身を縮めて小さく悲鳴を上げた。情けない奴だ。
こんな馬鹿どもにかまっている暇は無い。とっとと帰ろう。そしてソファにでも寝そべって、だらけてやる。
そんなことを心に決めつつ、急いで角を曲がった。
「兄貴、おかえり」
「あぁただいま。で、何でお前はそんなところにいるんだ?」
そんなところ―――――庭にぼんやりと突っ立っていた弟は、気だるげに「あぁ」と呟いた。
「今洗濯物取り込んで、たたんでたんだ。それで、たまたま外見たら夕陽がすごくて。それで、ちょっと昔を思い出したんだ」
「昔―――――?」
「そ。兄貴、覚えてる?昔、母親も父親も生きてた頃」
「まだ忘れるほど歳食ってないな」
いい思い出かと言われれば、必ずしもそうじゃないが。
「俺と兄貴がまだ小さい頃、何処かの原っぱにピクニックに行ったよな」
「・・・・・・そういえば、あったかな」
確か俺がまだ小学生だった頃。
「あの時、夕方頃に『そろそろ帰ろうか』っていう話になったよな?それで、父親が言ったこと、覚えてる?」
「いや・・・・・」
「え、憶えてないの?」
弟が露骨に嫌そうな顔をした。何でだ。
「じゃ、いいや」
「いや、気になるから言えよ」
「えー・・・・・」
弟はそれはそれはめんどくさそうにため息をついた。そして、暫く俺の顔を眺め、またため息をつく。幸せが逃げるらしいぞ。
「・・・・・・そろそろ帰ろうってことになって」
「ああ」
弟は暫く言いよどみ、それでも口を開いた。
「それで父親が『確か西に来たから、東に向かって帰ればいいんだよな』って言って、母親が頷くと同時に突然夕陽に向かって走り出したんだけど・・・・・・憶えてないの?」
・・・・・・思い出した。
「その後、すぐに母親にとっちめられてたな」
「思い出した?」
「バッチリと」
当時、自分の父親はこんなにも馬鹿だったのか、と思って暫く落胆したことまで思い出した。ついでに今も少し落胆した。
ふいに西の空を見ると、太陽の姿は見えず、光だけが微かに見えた。
「あ、そろそろ戻らないと」
「そうだな」
買ってきたものを早く冷蔵庫に入れないと。特に魚。弟は昔を思い出した余韻など全く無く、いつもの表情で玄関をくぐり、俺もそれに続いた。
<終わり>
何故か続きに。
微妙かな。
夏というにはまだ早く、春と呼ぶには遅い気もするこの時期。
服の選択にそこそこ悩む時期だ。
いい加減冬服が邪魔になり、そろそろ夏服も必要だろう。ということで、実家に帰ることにした。
休日の夕方。ひきこもり気味な弟が外出しているはずもなく、玄関の鍵はかかっていなかった。一応防犯の為かけといた方がいい気もするんだが。
「あ、兄貴おかえり」
「おう、ただいま」
「夏服でも取りに来た?」
「まぁそんなとこだな」
「へぇ・・・・・」
某雑学番組の単位のような声を出し、弟は本に視線を戻した。
外はなかなかの陽気だというのに、生地が薄いとは思えない黒の上下をしっかりと着込んでいる。それにもかかわらず、何故か顔は涼しげだ。家の中も、別に冷房とかはついてない。弟は何故かそういったものを積極的には付けたがらないし、相当暑くならない限り家の冷房は稼動することは無いだろう。
「なぁ、何でお前そんなに涼しそうなんだ?」
「運動してないから。日陰でじっとしてれば涼しいよ」
確かにそうだろうが、その調子でいくとその内、外に一歩も出てこなくなるんじゃないかと微妙に心配だ。
「すぐ行くの?」
「いや、折角だし、三日くらいは残る。たまにはゆっくりしないとな」
「ゆっくりしたいなら相棒って人と温泉とか行ってくれば?」
「あいつと一緒でゆっくりできるか」
俺の疲労の一部は、相棒に関する気苦労からきていると思っている。
「ふぅん・・・・・まぁいいけど。ところで兄貴。今日の夕飯は?」
「そうだな・・・・・材料見てから決めるけど、とりあえず和食系・・・・・って俺が作るのかよ!」
「ツッコミ遅い。それとも、それはノリツッコミ?」
弟はあくまで冷静だった。あの脳の構造をいっぺん調べたい。
「お前作れよ。料理できるだろ」
「別にいいけど、メニューは兄貴考えて」
「何でだ?」
「今の時期、気温とか中途半端で何を作ろうか考えるの面倒。普段なら、うどんとか楽でいいんだけど、この時期温かいのにするか冷たいのにするか迷うし・・・・・」
その気持ちはわかる。俺も昨日、それで悩んだ。結局相棒の熱意に負けて熱いのを作ったが。
「和食系でいいだろ。冷奴とか味噌汁とか」
「そう。じゃ、豆腐となめこと納豆買ってきて」
「・・・・・」
今度はパシリか。お前が行け、とか言ったらきっと『それじゃ料理は兄貴が作れ』とか言うんだろうな・・・・・。
「わかったよ」
「ついでに、何か魚買ってきてくれ」
「わかった」
部屋に荷物を放ってから、財布だけをポケットにつっこんだ。
「行ってくる」
「ん」
やる気の無い声に送り出され、先ほど通ったばかりのはずの玄関をくぐった。
外はやけに湿気が多く、そこそこ暑い。というか、蒸してる。
つい1〜2ヶ月前には薄紅色の花弁を撒き散らしていた桜は、今は青々とした葉を茂らせている。相棒は喜んでいるのか、それとも嘆いているのか。
吹く風は酷く湿気を含んでいて、何となく春と秋が混ざった感じだった。
<終わり>
一年間に50のお題より。
微妙・・・・・書き直すかもしれません。
服の選択にそこそこ悩む時期だ。
いい加減冬服が邪魔になり、そろそろ夏服も必要だろう。ということで、実家に帰ることにした。
休日の夕方。ひきこもり気味な弟が外出しているはずもなく、玄関の鍵はかかっていなかった。一応防犯の為かけといた方がいい気もするんだが。
「あ、兄貴おかえり」
「おう、ただいま」
「夏服でも取りに来た?」
「まぁそんなとこだな」
「へぇ・・・・・」
某雑学番組の単位のような声を出し、弟は本に視線を戻した。
外はなかなかの陽気だというのに、生地が薄いとは思えない黒の上下をしっかりと着込んでいる。それにもかかわらず、何故か顔は涼しげだ。家の中も、別に冷房とかはついてない。弟は何故かそういったものを積極的には付けたがらないし、相当暑くならない限り家の冷房は稼動することは無いだろう。
「なぁ、何でお前そんなに涼しそうなんだ?」
「運動してないから。日陰でじっとしてれば涼しいよ」
確かにそうだろうが、その調子でいくとその内、外に一歩も出てこなくなるんじゃないかと微妙に心配だ。
「すぐ行くの?」
「いや、折角だし、三日くらいは残る。たまにはゆっくりしないとな」
「ゆっくりしたいなら相棒って人と温泉とか行ってくれば?」
「あいつと一緒でゆっくりできるか」
俺の疲労の一部は、相棒に関する気苦労からきていると思っている。
「ふぅん・・・・・まぁいいけど。ところで兄貴。今日の夕飯は?」
「そうだな・・・・・材料見てから決めるけど、とりあえず和食系・・・・・って俺が作るのかよ!」
「ツッコミ遅い。それとも、それはノリツッコミ?」
弟はあくまで冷静だった。あの脳の構造をいっぺん調べたい。
「お前作れよ。料理できるだろ」
「別にいいけど、メニューは兄貴考えて」
「何でだ?」
「今の時期、気温とか中途半端で何を作ろうか考えるの面倒。普段なら、うどんとか楽でいいんだけど、この時期温かいのにするか冷たいのにするか迷うし・・・・・」
その気持ちはわかる。俺も昨日、それで悩んだ。結局相棒の熱意に負けて熱いのを作ったが。
「和食系でいいだろ。冷奴とか味噌汁とか」
「そう。じゃ、豆腐となめこと納豆買ってきて」
「・・・・・」
今度はパシリか。お前が行け、とか言ったらきっと『それじゃ料理は兄貴が作れ』とか言うんだろうな・・・・・。
「わかったよ」
「ついでに、何か魚買ってきてくれ」
「わかった」
部屋に荷物を放ってから、財布だけをポケットにつっこんだ。
「行ってくる」
「ん」
やる気の無い声に送り出され、先ほど通ったばかりのはずの玄関をくぐった。
外はやけに湿気が多く、そこそこ暑い。というか、蒸してる。
つい1〜2ヶ月前には薄紅色の花弁を撒き散らしていた桜は、今は青々とした葉を茂らせている。相棒は喜んでいるのか、それとも嘆いているのか。
吹く風は酷く湿気を含んでいて、何となく春と秋が混ざった感じだった。
<終わり>
一年間に50のお題より。
微妙・・・・・書き直すかもしれません。
『All Night Paradise』
2006年5月21日 お題紙の束を抱えてリィンの部屋に行くと、そこには既に先客がいた。
ブライトと、そして何故かライト。
「ライトがいるなんて珍しいね。」
「訓練場で喧嘩してて五月蠅かったんで、リィンの部屋で話聞いてたんです。どっちが悪かったか、公平に俺が審判することになったんで。」
ブライトが楽しそうに言った。
楽しそう、というかきっと楽しんでるんだろうなぁ・・・・・。
喧嘩、というよりはきっと、ライトが一方的に怒ってただけっていったほうが正しいんだろうな、とか思ったけど、口に出すのはやめておいた。
「それで、お話は終わった?」
「一応。まぁ少しは実際に見てましたから、そんなに時間はかからなかったです。話を聞くのは。」
「審判は、まだって事?」
どちらかというと確認の形で尋ねると、ブライトが声を上げて笑った。
「ていうか、決められないなぁみたいな。どっちも悪いようで、どっちも悪くないし。」
「物事の善悪など絶対的じゃない。そういうことが起こって当たり前なんだ。」
リィンがいつもどおり、不機嫌そうな声で言った。
ライトは納得できないような顔をしている。
「ところで神殿長、リィンに何か御用で?」
「あ、そうそう。あのさ、リィン、図書館行かない?」
「今からか?閉館時間近いだろ?」
「今日は朝まで開いてるんだ。」
「・・・・・今初めて聞いたんだが?」
「ついさっき決定したから。」
「どういうことです?」
ライトがおずおずと口を開いた。
堂々と聞けばいいのに。
「今日、俺、ちょっと調べ物しながら書かなきゃいけないものがあって。夜の方がはかどるから図書館借りれないか交渉したら他に誰かいるならいいって言われたんだ。だから、リィンを誘おうと思って。」
「・・・・・そうだな。滅多にない機会だ。行こう。」
リィンはあっさりと睡眠より読書をとった。
『かつて、この世界には神が降臨することがあった。
それはまさしく気まぐれというべき頻度で。
しかし、この世界に飽きた神々はやがて現れることは無くなった。
今では、時折神殿長の前にのみ、姿を現すという。』
そこまで読んで、本を閉じた。
時折、なのかなぁ・・・・・しかも、他に人がいるときも遊びに来るし。
自分の経験を信じたほうがいいだろう。
やけに重い本を抱えて、空いてる方の手でランタンを取った。
俺が今回書かなきゃいけないものは、『神について』のレポート。
提出先は、スノウシェイドさん。
ジャスティスさんの親友(本人は『ほとんど悪友みたいなもの』って言ってたけど)で、今ハサメ・レイトという少年ととても仲がよいらしい。
そして、そのレイトっていう少年が、こっちの世界で『神』がどう認識されているのか知りたがっていたらしくて、頼まれて、面白そうだったな、と思ってあっさり引き受けたけど、思っていたより資料を探したりするのが大変だった。
でも、引き受けた以上はちゃんとやらなくちゃ。
気合を入れなおして、役に立ちそうな本を探した。
上の方も探してみよう。
ランタンの小さな明かりでは、ブライト4〜5人分くらいの高さがある本棚の上の方はまったく分からない。
とりあえず近くの梯子を持ってきて、上ることにした。
脚立の方が安定するけど、あまり高いものは置いてないし。
研究者たちの中には梯子で登るのは苦手って人もいるし、もうちょっと大きな脚立を購入できないか今度リムド達に相談してみよう。
そう思いながら重い梯子を引きずるようにして、移動させ、きちんと立てかけた。
片手で上がるのは、ちょっと辛いものがあるけど、そうするしかないし。
ランタンをしっかり持って、足をかけた。
本のタイトルを見ながら進むけど、あまりいいものはない。
もっと上に行かないと駄目か。
途中で下を見下ろすと、闇に包まれていて床が見えなかった。
怖いなぁと思うけど、とりあえず本を探しながら上へ上へと進んでいく。
梯子の終わりが見えた頃、ようやく良さそうな本を見つけた。
少し離れたところにある本だ。
ランタンを慎重に置いて、本に手を伸ばす。
本の背表紙が軽く指先に触れた。
軽く引っ張っても、なかなか取れない。
少しくらいなら動いているから、本棚にギリギリに詰め込まれてる所為ではなさそう。
あ、重いからかもしれない。
そう思って、力を込めて引っ張った。
ずる、と音がして、本が本棚から抜けた。
喜ぶ間もなく、右手に本の重量がかかった。
その本は予想以上に重くて、バランスを崩してしまった。
左手で本棚の棚の部分を掴み、どうにか落下は避けられた。
そして同時に、かたん、と嫌な音がした。
「あ・・・・・。」
微妙なバランスで置かれていたランタンが、丁度梯子から落ちるところだった。
本棚から手を離して、慌てて手を伸ばす。
何とかランタンをキャッチすることは出来た・・・・・けど。
「・・・・・わぁっ!」
今度こそ本当にバランスを崩し、転落した。
ランタンと本をしっかりと抱えて、闇を見回した。
闇に右手を伸ばし、脳裏に杖を思い描く。
音もなく現れた杖を掴んで、ぎゅっと目を閉じた。
飛ぶには時間と集中力が必要だ。
今は、そのどちらにも余裕はない。
だから、とにかく落下の衝撃を和らげることだけを考えることにした。
落下速度を遅くするには、どうしたらいいだろうか。
風・・・・・そうだ、風が欲しい。
気を集中させると、風が俺の周りを囲んだ。
身体が宙にとどまった。
けど、すぐに風はほどけて、俺はまた落下した。
もう一回やるだけの気力はない。
もう駄目かな、と思ったとき、背中に何かが触れた。
一瞬遅れて、背中と膝に衝撃が来た。
「いっ・・・・・。」
みし、と骨が軋んだ。
けど、地面に落ちたのとは違うような・・・・・。
恐る恐る目を開けると、空より強い青の瞳と視線がかち合った。
「おい、ランタンと本を落としてないだろうな?」
不機嫌そうな声。
あぁ、リィンだ。
「ああ、大丈夫だよ。」
「そうか。」
リィンがそういうと同時に視点が下がった。
ややあって、床に触れたのだと分かった。
どうやら、リィンは俺を受け止めてくれたらしい。
「ありがとう、リィン。」
俺のことはついでだろうけど、とりあえずお礼は言っておくことにした。
「ランタンが落ちて壊れて火事にでもなったら本が燃えるからな。」
彼の真剣な表情は、照れ隠しとは無縁だ。
「ランタンじゃなくて、杖の光とかだったら放っておいた?」
「いや、それでも受け止めたと思うぞ。」
「あ、本持ってるしね。」
落ちたところで壊れるわけではないと思うけど、ページがぐしゃぐしゃになったりはするだろうし。
「いや、本がなくても同じことをした。」
「え・・・・・?」
「あの高さから落下したら、当然重傷を負うはずだからな。」
リィンが至極真剣に呟いた。
そして、俺はその意味を悟った。
「あー・・・・・本に血が付いたらとれないからなぁ・・・・・。」
「そういうことだ。気をつけろ。」
「はーい。」
何事もなかったかのようにリィンが立ち去った。
きっと、読書を再開するんだろう。
俺も早く調べ物を終わらせよう。
机を探す途中、微かな明るさに気が付いた。
近くの窓に駆け寄ると、月が傾いていることに気が付いた。
この分じゃ本当に徹夜になりそうだ。
まぁたまにはそれもいいか。
月に背を向けて、再び机探しに戻った。
<終わり>
一年間に50のお題より「06 All Night Paradise」
前回よりはできたかな、みたいな感じです。
ブライトと、そして何故かライト。
「ライトがいるなんて珍しいね。」
「訓練場で喧嘩してて五月蠅かったんで、リィンの部屋で話聞いてたんです。どっちが悪かったか、公平に俺が審判することになったんで。」
ブライトが楽しそうに言った。
楽しそう、というかきっと楽しんでるんだろうなぁ・・・・・。
喧嘩、というよりはきっと、ライトが一方的に怒ってただけっていったほうが正しいんだろうな、とか思ったけど、口に出すのはやめておいた。
「それで、お話は終わった?」
「一応。まぁ少しは実際に見てましたから、そんなに時間はかからなかったです。話を聞くのは。」
「審判は、まだって事?」
どちらかというと確認の形で尋ねると、ブライトが声を上げて笑った。
「ていうか、決められないなぁみたいな。どっちも悪いようで、どっちも悪くないし。」
「物事の善悪など絶対的じゃない。そういうことが起こって当たり前なんだ。」
リィンがいつもどおり、不機嫌そうな声で言った。
ライトは納得できないような顔をしている。
「ところで神殿長、リィンに何か御用で?」
「あ、そうそう。あのさ、リィン、図書館行かない?」
「今からか?閉館時間近いだろ?」
「今日は朝まで開いてるんだ。」
「・・・・・今初めて聞いたんだが?」
「ついさっき決定したから。」
「どういうことです?」
ライトがおずおずと口を開いた。
堂々と聞けばいいのに。
「今日、俺、ちょっと調べ物しながら書かなきゃいけないものがあって。夜の方がはかどるから図書館借りれないか交渉したら他に誰かいるならいいって言われたんだ。だから、リィンを誘おうと思って。」
「・・・・・そうだな。滅多にない機会だ。行こう。」
リィンはあっさりと睡眠より読書をとった。
『かつて、この世界には神が降臨することがあった。
それはまさしく気まぐれというべき頻度で。
しかし、この世界に飽きた神々はやがて現れることは無くなった。
今では、時折神殿長の前にのみ、姿を現すという。』
そこまで読んで、本を閉じた。
時折、なのかなぁ・・・・・しかも、他に人がいるときも遊びに来るし。
自分の経験を信じたほうがいいだろう。
やけに重い本を抱えて、空いてる方の手でランタンを取った。
俺が今回書かなきゃいけないものは、『神について』のレポート。
提出先は、スノウシェイドさん。
ジャスティスさんの親友(本人は『ほとんど悪友みたいなもの』って言ってたけど)で、今ハサメ・レイトという少年ととても仲がよいらしい。
そして、そのレイトっていう少年が、こっちの世界で『神』がどう認識されているのか知りたがっていたらしくて、頼まれて、面白そうだったな、と思ってあっさり引き受けたけど、思っていたより資料を探したりするのが大変だった。
でも、引き受けた以上はちゃんとやらなくちゃ。
気合を入れなおして、役に立ちそうな本を探した。
上の方も探してみよう。
ランタンの小さな明かりでは、ブライト4〜5人分くらいの高さがある本棚の上の方はまったく分からない。
とりあえず近くの梯子を持ってきて、上ることにした。
脚立の方が安定するけど、あまり高いものは置いてないし。
研究者たちの中には梯子で登るのは苦手って人もいるし、もうちょっと大きな脚立を購入できないか今度リムド達に相談してみよう。
そう思いながら重い梯子を引きずるようにして、移動させ、きちんと立てかけた。
片手で上がるのは、ちょっと辛いものがあるけど、そうするしかないし。
ランタンをしっかり持って、足をかけた。
本のタイトルを見ながら進むけど、あまりいいものはない。
もっと上に行かないと駄目か。
途中で下を見下ろすと、闇に包まれていて床が見えなかった。
怖いなぁと思うけど、とりあえず本を探しながら上へ上へと進んでいく。
梯子の終わりが見えた頃、ようやく良さそうな本を見つけた。
少し離れたところにある本だ。
ランタンを慎重に置いて、本に手を伸ばす。
本の背表紙が軽く指先に触れた。
軽く引っ張っても、なかなか取れない。
少しくらいなら動いているから、本棚にギリギリに詰め込まれてる所為ではなさそう。
あ、重いからかもしれない。
そう思って、力を込めて引っ張った。
ずる、と音がして、本が本棚から抜けた。
喜ぶ間もなく、右手に本の重量がかかった。
その本は予想以上に重くて、バランスを崩してしまった。
左手で本棚の棚の部分を掴み、どうにか落下は避けられた。
そして同時に、かたん、と嫌な音がした。
「あ・・・・・。」
微妙なバランスで置かれていたランタンが、丁度梯子から落ちるところだった。
本棚から手を離して、慌てて手を伸ばす。
何とかランタンをキャッチすることは出来た・・・・・けど。
「・・・・・わぁっ!」
今度こそ本当にバランスを崩し、転落した。
ランタンと本をしっかりと抱えて、闇を見回した。
闇に右手を伸ばし、脳裏に杖を思い描く。
音もなく現れた杖を掴んで、ぎゅっと目を閉じた。
飛ぶには時間と集中力が必要だ。
今は、そのどちらにも余裕はない。
だから、とにかく落下の衝撃を和らげることだけを考えることにした。
落下速度を遅くするには、どうしたらいいだろうか。
風・・・・・そうだ、風が欲しい。
気を集中させると、風が俺の周りを囲んだ。
身体が宙にとどまった。
けど、すぐに風はほどけて、俺はまた落下した。
もう一回やるだけの気力はない。
もう駄目かな、と思ったとき、背中に何かが触れた。
一瞬遅れて、背中と膝に衝撃が来た。
「いっ・・・・・。」
みし、と骨が軋んだ。
けど、地面に落ちたのとは違うような・・・・・。
恐る恐る目を開けると、空より強い青の瞳と視線がかち合った。
「おい、ランタンと本を落としてないだろうな?」
不機嫌そうな声。
あぁ、リィンだ。
「ああ、大丈夫だよ。」
「そうか。」
リィンがそういうと同時に視点が下がった。
ややあって、床に触れたのだと分かった。
どうやら、リィンは俺を受け止めてくれたらしい。
「ありがとう、リィン。」
俺のことはついでだろうけど、とりあえずお礼は言っておくことにした。
「ランタンが落ちて壊れて火事にでもなったら本が燃えるからな。」
彼の真剣な表情は、照れ隠しとは無縁だ。
「ランタンじゃなくて、杖の光とかだったら放っておいた?」
「いや、それでも受け止めたと思うぞ。」
「あ、本持ってるしね。」
落ちたところで壊れるわけではないと思うけど、ページがぐしゃぐしゃになったりはするだろうし。
「いや、本がなくても同じことをした。」
「え・・・・・?」
「あの高さから落下したら、当然重傷を負うはずだからな。」
リィンが至極真剣に呟いた。
そして、俺はその意味を悟った。
「あー・・・・・本に血が付いたらとれないからなぁ・・・・・。」
「そういうことだ。気をつけろ。」
「はーい。」
何事もなかったかのようにリィンが立ち去った。
きっと、読書を再開するんだろう。
俺も早く調べ物を終わらせよう。
机を探す途中、微かな明るさに気が付いた。
近くの窓に駆け寄ると、月が傾いていることに気が付いた。
この分じゃ本当に徹夜になりそうだ。
まぁたまにはそれもいいか。
月に背を向けて、再び机探しに戻った。
<終わり>
一年間に50のお題より「06 All Night Paradise」
前回よりはできたかな、みたいな感じです。
酔っ払いくらい厄介な存在も珍しい。
神殿で年に数回ある強制参加のイベント。
日が暮れた後、石畳の中庭に大勢が火を囲んで座り込んでいる光景はなかなか笑えるが、その人ごみ構成員の一部に自分が入っているとなるとウンザリする。
長引くだろうと予想して、一応ランプと本を三冊くらいは持ってきた。
まぁ、少年にはいい刺激になるかもしれないな。
夜だから少年も日よけセットを外して外で遊べて面白いらしい。
他の奴らに面倒を押し付けられるし。
「というわけだ。イルとかセイとかライトのところに行け。」
「うん!」
少年はパタパタとセイの方へ駆けていった。
真っ先にイルの所に行くものだと思っていたのだが、少し意外だったな。
・・・・・と思っていたら、二人は揃ってイルの所に突進した。
面白そうだから暫く観察しようかとも思ったが、それもめんどくさい。
できるだけ人混みから離れて、ランプをともす。
本を開いたとき、誰かが近づいてくるのが分かった。
「ブライトか。」
「ぅお、さすがリィン、見ないでもわかるとは。」
「どうでもいい、何の用だ。」
「飲み物配布係。二杯目以降は他の奴が配りに来ると思うけどな。」
「で、これは?」
「未成年用の飲み物。」
「へぇ・・・・・。」
もらったグラスを観察する。
薄い琥珀色の液体。
あまり見たこと無いな。
微かに妙な匂いもする気がする。
「これ、何だ?」
「ジュースだと思うけど・・・・・。」
「本気で言ってんのか?」
「?ああ。」
「飲んでみろ。」
「?」
首をかしげながらもブライトが口をつけた。
そして、しばしの沈黙。
「・・・・・これ、アルコール入ってるな。誰かが造るときに間違ったんだろ。プロじゃないんだし、当然といえば当然か。」
「そういえば今夜の飲み物は、厨房の奴らが造ってるんだったな。」
「ああ。ここで造る酒って、特殊工程踏んでるから身体には残らないし。未成年衆が飲んでも大して問題ないだろ。」
「一応酔うのか?」
「まぁ、一応な。でなきゃ意味ないし。」
「なるほど・・・・・頑張れ、ブライト。」
「は・・・・・?ま、とりあえずリィンも飲めよ。身体には悪くないし。」
「それはわかる。悪かったらお前が飲むはず無いからな。剣の腕を一時の快楽の為に捨てるような奴じゃないだろ、お前は。」
「まぁ、そりゃな。お前も楽しめよ。」
グラスを押し付け、ブライトは去っていく。
これでようやく読書ができる。
とりあえず一口飲んでみた。
程よい甘さが広がる。
・・・・・だが、読書の邪魔だな。
グラスをその辺に放置して、本に視線を向けた。
「ふにゃ・・・・・イル〜。」
ハザード君がぴたっと膝にくっついてきた。
顔が赤いし、なんとなくだるそうだ。
「ハザード君、風邪?」
「あうぅ〜・・・・・わかんない。」
よしよしと頭を撫でると、何故か目が潤みだした。
目を閉じて、掌に気を集中させる。
体の温度が少し上がってるけど、それ以外に特に異常は無い。
風邪ではなさそうだけど・・・・・。
正式に医者に見せたほうがいいのかな、と思っていたら、後ろから衝撃が来た。
「セイ!?」
「しんでんちょー!ハザードばっかりかまってずるーい!!もっとおれとあそんでー!」
どうにか動く首を回して、セイを見た。
何か楽しい事でもあったのか、とても楽しそうに笑っている。
顔は赤かった。
えーと・・・・・もしかして、これは。
「二人とも、酔ってる?」
「あうぅ?」
「えー、よってるってなにがよってるの?」
二人とも呂律が回ってない。
完全に、酔ってる。
「あ、遅かったか。」
「ブライト。」
「未成年用のほうも、造る奴が間違ってアルコール入ったみたいで。」
「あぁ、それで・・・・・二人とも、あんまり飲んで無かったとは思うんだけど。」
「見るからに酒弱そうだし。ほら、ハザードもセイも一回神殿長から離れようなー?そのままだと神殿長が動けないぞ?」
ブライトはそう言って二人を引き剥がした。
俺としては、別にこのままでも良かったんだけど。
「あうぅ〜・・・・・ぶらいと、ひどい。」
ハザード君の頬に透明な液体が流れた。
率直に言えば、涙。
「え・・・・・いや、べつにそういうつもりじゃないんだけど・・・・・。」
「えう・・・・・うぅ・・・・・うわぁあああん!」
ハザード君が、本格的に泣き出した。
「ぶらいと、ひどい〜・・・・・・!」
ブライトがたじろいでいると、セイが二人を指さして笑い出した。
「あはははははは・・・・・・ふたりともおもしろーい!」
「えうぅ・・・・・ひどいよぅ!」
「ハザード君、とりあえず落ち着いてね。」
頭を撫でても、ハザード君は泣き止まなかった。
「えう・・・・・ふぇ・・・・・いるがやさしいよぅ・・・・・。」
「・・・・・ハザード君は、完璧に泣き上戸みたいだね。」
「セイは、笑い上戸か。とりあえずコレ飲んで落ち着け。」
ブライトが差し出したコップを、二人はおとなしく受け取った。
「・・・・・これ以上飲ませていいの?」
「さっさと潰した方が楽です。」
「それもそうだけど、ここで寝たら風邪ひくよ。二人は早めに部屋に帰してあげたほうがいいんじゃないかな。」
「やだー!まだあそぶー!」
「あうぅ・・・・・ねるのやだ!」
「こらー!ふたりとも!!」
聞き覚えのある怒鳴り声。
向いてみると、やっぱりそこにはライトがいた。
ライトも顔が真っ赤だ。
怒りで高潮してる、だけじゃなさそう。
「しんでんちょうに迷惑をかけるなっていつもいってるだろ!」
微妙に呂律が回ってない。
彼も彼で十分酔ってるようだ。
セイは怒鳴るライトを指して、けらけらと笑う。
「あははは!ライト、おもしろぉい!」
「ふぇ・・・・・らいとがどなった〜・・・・・!」
「大丈夫、二人がくっついてても迷惑なんかじゃないから。ね?」
「あはは・・・・・完璧にお母さんですねぇ神殿長。」
ブライトがいつもどおり朗らかに言う。
そういえば彼はかなり酒に強かったっけ。
「じゃ、とりあえずお子様三人は何処か室内に放置してきますよ。他二人はともかく、ハザードはうっかり屋外に放置したまま寝たりしたら大変だし。」
「うん、お願いするよ。」
ブライトは泣いているハザード君をひょいと抱き上げて、肩に乗せた。
肩車の体勢だ。
そして、セイに飲み物を渡し、それから右脇に抱えた。
「ライト、ちょっとこっち来い。」
「?」
酔いが回っている所為か、おとなしくライトが寄ってきた。
そんなライトのお腹に、左手で鋭く拳を叩き込んだ。
倒れこんだところで、さっと上手く左脇に抱えた。
「ハザード、しっかりつかまってろよ。」
「う、うん。」
泣きそうな顔で、ハザード君が頷いた。
セイは飲み物を飲みながら楽しそうに笑っている。
「じゃ、ちょっとしたら戻ってくるので。」
そういうと、ブライトは重みを苦にしていないような足取りで歩いていった。
やっぱり鍛えてる剣士だからかな。
なんだか父親みたいだなぁ。
何となく微笑ましく思いながら、グラスに残っていた飴色の酒を飲み干した。
お子様たちは、部屋に着くなり健やかに眠り始めた。(その内一人はもともと寝てた)
この調子なら大丈夫っぽいから、さっさと戻って飲みなおそう。
そんなに時間は経っていないと思ったんだが戻ってみたらすごいことになってた。
酔っ払いの数が尋常じゃない。
まぁ、楽しくていいか。
まさか剣を抜くような奴はいないだろうし。
剣士仲間と暫く飲んだ後、そういえばイルはどうしてるかなぁと気になって、ビンとグラスを持って一緒に飲みにいくことにした。
「神殿長、一緒に飲みましょー。」
「あ、ブライト。いいねぇ、飲もうか。」
のほほんと微笑んで、グラスを傾ける。
そんな仕種もやけに優美に見えた。
「神殿長、話は聞いてましたけど、結構強いみたいですね。」
「まぁね。でも、飲み過ぎないように注意しないといけないんだよ。一定量超えると記憶なくなるから。」
「一定量ってどのくらいですか?」
「量ったことないからよくわかんないや。」
俺が気をつけよう、と思わないでもないが、コレまでどのくらい飲んでいたのかわからないから注意しようがない。
「やっぱり美味しい。あ、ブライトのお酒とちょっと違うね。一口交換しない?」
「いいですよ。」
飴色のそれは、俺には少し甘かった。
「ブライトの、苦いね。」
「俺はこういうほうが好きなんで。」
交換したグラスを戻しあったとき、くらりと軽い酩酊感を感じた。
甘いと思って軽く見ていたが、これはこれで結構強い奴だと忘れてた。
「神殿長、本当に強いですね。」
「そうかなぁ?」
神殿長は首をかしげながら、残っていた酒を飲み干した。
その途端、くらっと軽く身体が揺れた。
「大丈夫ですか?」
「ん・・・・・平気平気。」
そう言って微笑む。
頬が微かに紅色に染まり、目の焦点は微妙に合ってない。
少し酔いが回ってきたのかもしれない。
「とりあえず、あんまり飲み過ぎないようにしてください。」
「敬語は嫌。いいじゃない。二人で飲んでるんだから。こういうときまで敬語使われたら嫌だよ。」
「あー・・・・・・わかったよ。じゃ、飲み過ぎないように気をつけてくれよ。」
「うん。」
楽しそうにイルが微笑んだ。
酔ってる所為もあって、可愛い。
「ブライトは酔わないの?」
「ちょっと酔いが回ってきてますよ。今すごい陽気な気分です。」
「そっか。俺もちょっと酔ってるかも。なんか熱いし。」
ぱたぱたと扇いでいる。
本当に熱そうだ。
「本当に熱いなぁ・・・・・。脱いじゃってもいい?」
「まぁ、いいんじゃないか?上着くらいならさ。」
イルは嬉々として脱ぎだした。
上着を脱ぎ終わると、すぐにその下に手をかけた。
「上着までにしとけって。」
手首を取って止めた。
イルが不満そうな声を漏らし、顔を上げて俺を見上げてきた。
銀色の睫毛でやや隠れている、酔いの所為で潤んでいる紫の瞳に俺の姿が映っていた。
一気に酔いが吹っ飛んだ。
「駄目だからな。」
「だって、まだ熱いんだもの。」
・・・・・・えーと
「完璧に酔ってるな。」
「だな・・・・・って、リィン。」
「リィン!どうしたの?リィンも飲む?」
「帰るぞ。」
「えー?」
「もう三冊読み終わったからな。帰るぞ。」
「あ、そうなの?じゃ帰る〜。」
イルは楽しそうに笑いながら立ち上がった。
「は?」
「今日は強制参加だ。だが、朝まで出るつもりは無かったから、とりあえず本を何冊か読み終わったら帰るという約束だった。といっても、一冊分くらいじゃ帰れなさそうだったからな。とりあえず三冊にした。このくらいなら殆どの奴が酔ってるから抜けてもばれにくい。」
「それで、俺はリィンの部屋に泊まるの。朝まで飲むとリムドに怒られるし、部屋に帰ると明日の朝すぐに起こされちゃうかもしれないから。」
「はぁ・・・・・なるほどな。」
二人は入念に計画を立てていたらしい。
ふと、リィンが、イルの近くにあったビンを拾い上げた。
「これは?」
「さっきまでイルが飲んでたものだ。」
「まだ残ってるな。ブライト、飲むか?」
「いや、やめとく。」
「かといって、こいつが飲んだ後だと他の奴が飲みたがらないだろ。」
「あー・・・・・まぁいろいろあるな。」
「えー?」
イルは明らかに不満そうだ。
けどなぁ・・・・・。
「仕方ないな。」
リィンはため息をつくと、ビンに直接口をつけて一気に煽った。
予想外の行動に少し驚いた。
顔をしかめて、口のあたりを拭った。
「甘いな。」
「リィン凄いね。」
感想を呟くリィンに賞賛の声をかけるイル。
「いや、そうだけどさ、お前飲むのか?」
「それなりにな。飲むものが無いからとりあえずさっきまで飲んでいたし。」
「へぇ、意外だ。」
「別にこういう場でくらいは飲むぞ・・・・・おいイル。ここで脱ぐな。部屋で脱げ。」
「はーい。」
「ははは、二人は本当に仲がいいなぁ・・・・・って、おい!」
今、さらっと凄いこと言った気がする。
「部屋で着替えるくらい、別に男同士なんだからいいじゃない。」
「着替え?」
「寝間着に着替える必要があるだろう?」
「あ、そうか。」
「何を考えてたんだ、お前。」
呆れたようにいわれて、とりあえず適当に笑って誤魔化しておいた。
二人は人のいないほうを通り、部屋へと戻っていった。
誰か誘って飲もうと見回すと、ビンと何人かの人間が転がっている地帯があることに気が付いた。
近づいてみると、転がっている連中の内、一人はまだ意識があるようだった。
戦士じゃない・・・・・あ、確か学者たちのところで見たことあるな。
「どうしたんだ?」
「あー・・・・・リィンと飲みながら遺跡についての話とかしてたんですけど・・・・・リィンがあまりにあっさり飲んでるから付き合って飲んでたら、つい・・・・・。」
「まさか、ここのビン全部お前らで開けたのか?」
「う・・・・三分の一くらいは・・・・・リィンだと思います・・・・・。」
眺めてみると、割と強めのがごろごろと並んでいた。
リィンはちっとも酔った様子が無かった。
あれで酔ってたとかだったら笑えるけどさ。
とりあえずまだ飲んでる戦士連中を捕まえて飲みなおすことにした。
その途中で、木に向かってぶつぶつと話しかけるリムドの姿が見えたけど、とりあえず気にしないでおくことにした。
終わり。
不完全燃焼。
タイトルが結局分からなかったので、適当に書きました。
神殿で年に数回ある強制参加のイベント。
日が暮れた後、石畳の中庭に大勢が火を囲んで座り込んでいる光景はなかなか笑えるが、その人ごみ構成員の一部に自分が入っているとなるとウンザリする。
長引くだろうと予想して、一応ランプと本を三冊くらいは持ってきた。
まぁ、少年にはいい刺激になるかもしれないな。
夜だから少年も日よけセットを外して外で遊べて面白いらしい。
他の奴らに面倒を押し付けられるし。
「というわけだ。イルとかセイとかライトのところに行け。」
「うん!」
少年はパタパタとセイの方へ駆けていった。
真っ先にイルの所に行くものだと思っていたのだが、少し意外だったな。
・・・・・と思っていたら、二人は揃ってイルの所に突進した。
面白そうだから暫く観察しようかとも思ったが、それもめんどくさい。
できるだけ人混みから離れて、ランプをともす。
本を開いたとき、誰かが近づいてくるのが分かった。
「ブライトか。」
「ぅお、さすがリィン、見ないでもわかるとは。」
「どうでもいい、何の用だ。」
「飲み物配布係。二杯目以降は他の奴が配りに来ると思うけどな。」
「で、これは?」
「未成年用の飲み物。」
「へぇ・・・・・。」
もらったグラスを観察する。
薄い琥珀色の液体。
あまり見たこと無いな。
微かに妙な匂いもする気がする。
「これ、何だ?」
「ジュースだと思うけど・・・・・。」
「本気で言ってんのか?」
「?ああ。」
「飲んでみろ。」
「?」
首をかしげながらもブライトが口をつけた。
そして、しばしの沈黙。
「・・・・・これ、アルコール入ってるな。誰かが造るときに間違ったんだろ。プロじゃないんだし、当然といえば当然か。」
「そういえば今夜の飲み物は、厨房の奴らが造ってるんだったな。」
「ああ。ここで造る酒って、特殊工程踏んでるから身体には残らないし。未成年衆が飲んでも大して問題ないだろ。」
「一応酔うのか?」
「まぁ、一応な。でなきゃ意味ないし。」
「なるほど・・・・・頑張れ、ブライト。」
「は・・・・・?ま、とりあえずリィンも飲めよ。身体には悪くないし。」
「それはわかる。悪かったらお前が飲むはず無いからな。剣の腕を一時の快楽の為に捨てるような奴じゃないだろ、お前は。」
「まぁ、そりゃな。お前も楽しめよ。」
グラスを押し付け、ブライトは去っていく。
これでようやく読書ができる。
とりあえず一口飲んでみた。
程よい甘さが広がる。
・・・・・だが、読書の邪魔だな。
グラスをその辺に放置して、本に視線を向けた。
「ふにゃ・・・・・イル〜。」
ハザード君がぴたっと膝にくっついてきた。
顔が赤いし、なんとなくだるそうだ。
「ハザード君、風邪?」
「あうぅ〜・・・・・わかんない。」
よしよしと頭を撫でると、何故か目が潤みだした。
目を閉じて、掌に気を集中させる。
体の温度が少し上がってるけど、それ以外に特に異常は無い。
風邪ではなさそうだけど・・・・・。
正式に医者に見せたほうがいいのかな、と思っていたら、後ろから衝撃が来た。
「セイ!?」
「しんでんちょー!ハザードばっかりかまってずるーい!!もっとおれとあそんでー!」
どうにか動く首を回して、セイを見た。
何か楽しい事でもあったのか、とても楽しそうに笑っている。
顔は赤かった。
えーと・・・・・もしかして、これは。
「二人とも、酔ってる?」
「あうぅ?」
「えー、よってるってなにがよってるの?」
二人とも呂律が回ってない。
完全に、酔ってる。
「あ、遅かったか。」
「ブライト。」
「未成年用のほうも、造る奴が間違ってアルコール入ったみたいで。」
「あぁ、それで・・・・・二人とも、あんまり飲んで無かったとは思うんだけど。」
「見るからに酒弱そうだし。ほら、ハザードもセイも一回神殿長から離れようなー?そのままだと神殿長が動けないぞ?」
ブライトはそう言って二人を引き剥がした。
俺としては、別にこのままでも良かったんだけど。
「あうぅ〜・・・・・ぶらいと、ひどい。」
ハザード君の頬に透明な液体が流れた。
率直に言えば、涙。
「え・・・・・いや、べつにそういうつもりじゃないんだけど・・・・・。」
「えう・・・・・うぅ・・・・・うわぁあああん!」
ハザード君が、本格的に泣き出した。
「ぶらいと、ひどい〜・・・・・・!」
ブライトがたじろいでいると、セイが二人を指さして笑い出した。
「あはははははは・・・・・・ふたりともおもしろーい!」
「えうぅ・・・・・ひどいよぅ!」
「ハザード君、とりあえず落ち着いてね。」
頭を撫でても、ハザード君は泣き止まなかった。
「えう・・・・・ふぇ・・・・・いるがやさしいよぅ・・・・・。」
「・・・・・ハザード君は、完璧に泣き上戸みたいだね。」
「セイは、笑い上戸か。とりあえずコレ飲んで落ち着け。」
ブライトが差し出したコップを、二人はおとなしく受け取った。
「・・・・・これ以上飲ませていいの?」
「さっさと潰した方が楽です。」
「それもそうだけど、ここで寝たら風邪ひくよ。二人は早めに部屋に帰してあげたほうがいいんじゃないかな。」
「やだー!まだあそぶー!」
「あうぅ・・・・・ねるのやだ!」
「こらー!ふたりとも!!」
聞き覚えのある怒鳴り声。
向いてみると、やっぱりそこにはライトがいた。
ライトも顔が真っ赤だ。
怒りで高潮してる、だけじゃなさそう。
「しんでんちょうに迷惑をかけるなっていつもいってるだろ!」
微妙に呂律が回ってない。
彼も彼で十分酔ってるようだ。
セイは怒鳴るライトを指して、けらけらと笑う。
「あははは!ライト、おもしろぉい!」
「ふぇ・・・・・らいとがどなった〜・・・・・!」
「大丈夫、二人がくっついてても迷惑なんかじゃないから。ね?」
「あはは・・・・・完璧にお母さんですねぇ神殿長。」
ブライトがいつもどおり朗らかに言う。
そういえば彼はかなり酒に強かったっけ。
「じゃ、とりあえずお子様三人は何処か室内に放置してきますよ。他二人はともかく、ハザードはうっかり屋外に放置したまま寝たりしたら大変だし。」
「うん、お願いするよ。」
ブライトは泣いているハザード君をひょいと抱き上げて、肩に乗せた。
肩車の体勢だ。
そして、セイに飲み物を渡し、それから右脇に抱えた。
「ライト、ちょっとこっち来い。」
「?」
酔いが回っている所為か、おとなしくライトが寄ってきた。
そんなライトのお腹に、左手で鋭く拳を叩き込んだ。
倒れこんだところで、さっと上手く左脇に抱えた。
「ハザード、しっかりつかまってろよ。」
「う、うん。」
泣きそうな顔で、ハザード君が頷いた。
セイは飲み物を飲みながら楽しそうに笑っている。
「じゃ、ちょっとしたら戻ってくるので。」
そういうと、ブライトは重みを苦にしていないような足取りで歩いていった。
やっぱり鍛えてる剣士だからかな。
なんだか父親みたいだなぁ。
何となく微笑ましく思いながら、グラスに残っていた飴色の酒を飲み干した。
お子様たちは、部屋に着くなり健やかに眠り始めた。(その内一人はもともと寝てた)
この調子なら大丈夫っぽいから、さっさと戻って飲みなおそう。
そんなに時間は経っていないと思ったんだが戻ってみたらすごいことになってた。
酔っ払いの数が尋常じゃない。
まぁ、楽しくていいか。
まさか剣を抜くような奴はいないだろうし。
剣士仲間と暫く飲んだ後、そういえばイルはどうしてるかなぁと気になって、ビンとグラスを持って一緒に飲みにいくことにした。
「神殿長、一緒に飲みましょー。」
「あ、ブライト。いいねぇ、飲もうか。」
のほほんと微笑んで、グラスを傾ける。
そんな仕種もやけに優美に見えた。
「神殿長、話は聞いてましたけど、結構強いみたいですね。」
「まぁね。でも、飲み過ぎないように注意しないといけないんだよ。一定量超えると記憶なくなるから。」
「一定量ってどのくらいですか?」
「量ったことないからよくわかんないや。」
俺が気をつけよう、と思わないでもないが、コレまでどのくらい飲んでいたのかわからないから注意しようがない。
「やっぱり美味しい。あ、ブライトのお酒とちょっと違うね。一口交換しない?」
「いいですよ。」
飴色のそれは、俺には少し甘かった。
「ブライトの、苦いね。」
「俺はこういうほうが好きなんで。」
交換したグラスを戻しあったとき、くらりと軽い酩酊感を感じた。
甘いと思って軽く見ていたが、これはこれで結構強い奴だと忘れてた。
「神殿長、本当に強いですね。」
「そうかなぁ?」
神殿長は首をかしげながら、残っていた酒を飲み干した。
その途端、くらっと軽く身体が揺れた。
「大丈夫ですか?」
「ん・・・・・平気平気。」
そう言って微笑む。
頬が微かに紅色に染まり、目の焦点は微妙に合ってない。
少し酔いが回ってきたのかもしれない。
「とりあえず、あんまり飲み過ぎないようにしてください。」
「敬語は嫌。いいじゃない。二人で飲んでるんだから。こういうときまで敬語使われたら嫌だよ。」
「あー・・・・・・わかったよ。じゃ、飲み過ぎないように気をつけてくれよ。」
「うん。」
楽しそうにイルが微笑んだ。
酔ってる所為もあって、可愛い。
「ブライトは酔わないの?」
「ちょっと酔いが回ってきてますよ。今すごい陽気な気分です。」
「そっか。俺もちょっと酔ってるかも。なんか熱いし。」
ぱたぱたと扇いでいる。
本当に熱そうだ。
「本当に熱いなぁ・・・・・。脱いじゃってもいい?」
「まぁ、いいんじゃないか?上着くらいならさ。」
イルは嬉々として脱ぎだした。
上着を脱ぎ終わると、すぐにその下に手をかけた。
「上着までにしとけって。」
手首を取って止めた。
イルが不満そうな声を漏らし、顔を上げて俺を見上げてきた。
銀色の睫毛でやや隠れている、酔いの所為で潤んでいる紫の瞳に俺の姿が映っていた。
一気に酔いが吹っ飛んだ。
「駄目だからな。」
「だって、まだ熱いんだもの。」
・・・・・・えーと
「完璧に酔ってるな。」
「だな・・・・・って、リィン。」
「リィン!どうしたの?リィンも飲む?」
「帰るぞ。」
「えー?」
「もう三冊読み終わったからな。帰るぞ。」
「あ、そうなの?じゃ帰る〜。」
イルは楽しそうに笑いながら立ち上がった。
「は?」
「今日は強制参加だ。だが、朝まで出るつもりは無かったから、とりあえず本を何冊か読み終わったら帰るという約束だった。といっても、一冊分くらいじゃ帰れなさそうだったからな。とりあえず三冊にした。このくらいなら殆どの奴が酔ってるから抜けてもばれにくい。」
「それで、俺はリィンの部屋に泊まるの。朝まで飲むとリムドに怒られるし、部屋に帰ると明日の朝すぐに起こされちゃうかもしれないから。」
「はぁ・・・・・なるほどな。」
二人は入念に計画を立てていたらしい。
ふと、リィンが、イルの近くにあったビンを拾い上げた。
「これは?」
「さっきまでイルが飲んでたものだ。」
「まだ残ってるな。ブライト、飲むか?」
「いや、やめとく。」
「かといって、こいつが飲んだ後だと他の奴が飲みたがらないだろ。」
「あー・・・・・まぁいろいろあるな。」
「えー?」
イルは明らかに不満そうだ。
けどなぁ・・・・・。
「仕方ないな。」
リィンはため息をつくと、ビンに直接口をつけて一気に煽った。
予想外の行動に少し驚いた。
顔をしかめて、口のあたりを拭った。
「甘いな。」
「リィン凄いね。」
感想を呟くリィンに賞賛の声をかけるイル。
「いや、そうだけどさ、お前飲むのか?」
「それなりにな。飲むものが無いからとりあえずさっきまで飲んでいたし。」
「へぇ、意外だ。」
「別にこういう場でくらいは飲むぞ・・・・・おいイル。ここで脱ぐな。部屋で脱げ。」
「はーい。」
「ははは、二人は本当に仲がいいなぁ・・・・・って、おい!」
今、さらっと凄いこと言った気がする。
「部屋で着替えるくらい、別に男同士なんだからいいじゃない。」
「着替え?」
「寝間着に着替える必要があるだろう?」
「あ、そうか。」
「何を考えてたんだ、お前。」
呆れたようにいわれて、とりあえず適当に笑って誤魔化しておいた。
二人は人のいないほうを通り、部屋へと戻っていった。
誰か誘って飲もうと見回すと、ビンと何人かの人間が転がっている地帯があることに気が付いた。
近づいてみると、転がっている連中の内、一人はまだ意識があるようだった。
戦士じゃない・・・・・あ、確か学者たちのところで見たことあるな。
「どうしたんだ?」
「あー・・・・・リィンと飲みながら遺跡についての話とかしてたんですけど・・・・・リィンがあまりにあっさり飲んでるから付き合って飲んでたら、つい・・・・・。」
「まさか、ここのビン全部お前らで開けたのか?」
「う・・・・三分の一くらいは・・・・・リィンだと思います・・・・・。」
眺めてみると、割と強めのがごろごろと並んでいた。
リィンはちっとも酔った様子が無かった。
あれで酔ってたとかだったら笑えるけどさ。
とりあえずまだ飲んでる戦士連中を捕まえて飲みなおすことにした。
その途中で、木に向かってぶつぶつと話しかけるリムドの姿が見えたけど、とりあえず気にしないでおくことにした。
終わり。
不完全燃焼。
タイトルが結局分からなかったので、適当に書きました。
ご注意下さい。さらっと微妙なネタです。
『つくりかた。』
子どもの純粋な一言というのは、時としてどんなものよりも始末に終えないものだと思う。
「ねぇねぇ、赤ちゃんって、どうやったらできるの?」
キラキラと輝く深緑の瞳に見つめられ、返答に困った。
助けを求めようと視線を彷徨わせると、ぽかんと口を開けたライトの姿が見えた。
リィンは黙って本を読んでいる。
聞こえていないはずは無いと思うのだが、ただ単に関わる必要は無いと判断したのだろう。
「ぼ、僕もしりたい・・・・・おしえて?」
今度は赤い瞳に見据えられる。
どちらも純粋な視線だ。
二人とも知的好奇心に旺盛だから、いずれ来るだろうとは思っていたけど。
「何の赤ちゃん?」
「ヒトの赤ちゃん!」
「そう。ヒトの、どの種族の赤ちゃんがいいの?」
二人の頭をよしよしと撫でつつ、尋ねた。
セイもハザードくんもきょとんとして首を傾げる。
可愛いけど、15歳。
「ヒトはね、種族によって赤ちゃんの生まれ方が違うんだよ。」
「えー・・・・・・じゃぁ、うーん・・・・・。」
二人は暫く小さな声で相談をしてから、声をそろえて言った。
「リィンとかブライトみたいなヒトの赤ちゃん。」
つまり、普通の人間族ってことか。
困ったなぁ・・・・・。
今この場で説明するのは、大変だ。
二人とも精神的に物凄く幼いとは言え、実年齢は15歳。
天使が連れてくるとか、そういう伝説的なものを教えるのは流石に、ちょっと気が引ける。
かといって、しっかりと説明するのは難しい・・・・・・というか。
「実は、俺も知らないんだけど・・・・・。」
「・・・・・は?」
ライトが呆然と呟いた。
「神殿に来てから、いろんな勉強を教えられて、その中に一応その話もあったんだけど、何故か人間族と、それと同じ種族のだけは教えてもらえなかったんだよ。」
「『神殿長』には珍しくも無い現象だ。周囲の人間がそういったものから遠ざけたがるから、教えないということがよくある。」
リィンが本から目を離さないまま補足してくれた。
あ、俺だけじゃなかったんだ、よかった。
「・・・・・マジですか。」
ライトが顔を抑えて呻いた。
このお子様たちをどうすれば良いだろうか。
リィンは元から参加していない。
神殿長はご存知じゃない。
ということで、二人の純粋なお子様は俺をじっと見つめている。
こういう子ども相手だと、どうやって説明すればいいのか分からない。
本当は嫌だけど、この際仕方ない。
相変わらず本から視線をはずそうとしないリィンに目を向けた。
「リィン、助けてくれ。」
「手っ取り早く言えば良いだろう。」
「言えるか!お前だったら言えるのか?」
「言えるが?」
当然というようにリィンが鼻で笑う。
こいつなら、本当に言いそうだ。
「やっぱり、俺が勉強して教えてあげればいいのかな。」
「・・・・・いや、良いです神殿長。俺が何とか二人に説明しますから。」
「できるのか?」
「や、やるさ!えっと・・・・。」
リィンに馬鹿にされてちょっとカッとなりつつ、頑張って考える。
いつまで経っても、全然思いつかなかった。
「もう!じれったいなぁ!ねぇねぇ、どうやったらできるの?やってみせてよー!」
「やっ・・・・・・!!一人でできるかー!!」
顔が一気に熱くなる。
思わず叫ぶと、リィンにはたかれた。
セイがじっと俺を見つめてきた。
「一人じゃできないの?」
「え・・・・・それは、まぁ。」
「じゃ、神殿長と二人でならできるー?」
「で・・・・・できるかぁあああぁああ!!」
「五月蠅い。」
もう一度、今度はさらに強くはたかれた。
頭を抑えつつ顔を上げると同時に、扉が開く音がした。
「どうしたライト?」
ブライトがひょこっと顔を覗かせる。
「ブライト・・・・・助けてくれ。」
「は?」
「ガキ二人が子どもの作り方を聞いてきたんだ。それも人間の。ライトの馬鹿が説明できないから、二人が実際にやって見せてくれと言ってきている。」
「マジか。」
リィンの率直過ぎる説明(ていうか、馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!)に、ブライトが軽く驚く。
その間にも、二人はねぇねぇと袖を引っ張ってくる。
「三人ならできるー?」
「いや、三人は要らないな。」
リィンがキッパリと答える。
「・・・・・イルとライトだと、できないの?」
ハザードがこくんと小首をかしげた。
まぁ、間違ってはいないので、頷いておく。
「じゃぁ、イルとリィンならできる?」
悪意のないその言葉に、俺は固まるしかなかった。
「いや、無理だなぁ。ていうか、想像できねぇ。」
「想像するな、気色悪い。」
ブライトの言葉に、リィンがきつくツッコミを入れる。
今ばかりはリィンが正しいと思う。
ツッコミひどいけど。
「じゃぁ、イルとブライトは?」
「・・・・・・できないなぁっていうか、あの、なんつーかさ、構図的にヤバイ。俺けっこう悪人面だし。」
「というか、何故イルは固定なんだ?」
「だって、神殿長お母さんだもん。」
「赤ちゃんって、おかあさんから生まれるんだよね。」
なんだ、それは知ってたのか。
普通に考えれば当たり前だが、この二人だとつい、そういうことも知らないのでは、と思ってしまう。
「それでいくと、父親候補が俺とライトとブライトということになるな。不愉快だから俺は抜かしておけ。」
「また自分勝手なことを・・・・・。」
叫ぶ気力も無く、ため息をつく。
セイたちは、きょとんとしていた。
そして、声をそろえて尋ねる。
「ねぇ、『ちちおや』って何?」
二人の言葉を理解するのに、どれだけの時間を要しただろう。
「・・・・・・お父さんのことだけど・・・・・知らないのか?」
「お父さんって何?何の種族?」
「セイ、『さん』ってつくから、ひとの名前かも。」
「あ、そっかぁ!」
二人は勝手に話を進めていく。
このままだと、物凄くおかしな知識が根付いてしまいそうだ。
不意に、神殿長がぽむ、と手を打った。
「・・・・・じゃ、こうしようか、二人とも。」
「?」
「今日、俺が『お父さん』について教えてあげる。だから、二人とも『お父さん』についてちゃんとわかったら、またライトやブライトに聞きにいこうね?」
「えー。すぐがいいー。」
「もう夜遅いから駄目だよ。早く寝ないと、背が伸びないよ?セイ、ブライトを抜かすんだって、張り切ってるのに、それでもいいの?」
「え、やだ。」
「僕もおっきくなれないのいや・・・・・。」
身長のことを引き合いに出され、二人はおとなしくなった。
ハザードはもともとかなり小柄だし、セイは割と背が高いが、目標が目標だけに、この話題はスルーできないのだろう。
「今日は三人で一緒に寝ようね。寝る前にお話してあげる。」
「ホントにー!?」
「いいの・・・・・?」
「うん。着替えたら俺の部屋においで。」
「はーい。」
無邪気な15歳の少年たちは、おとなしく従った。
急いでそれぞれの部屋に着替えに走る。
途中でハザードが転びそうになったが、多分大丈夫だろう。
「完全に、母親だな。」
リィンが呆れたように呟いた。
「精神年齢的には、母親が必要そうなお年頃でしょ。」
「ま、それもそうですね。」
ブライトと神殿長がくすくすと笑い合う。
リィンは視線を本に引き戻している。
一つ、気になることがあったので、聞いてみることにした。
後悔するかもしれないが、聞かなくても後悔する気がするし。
「リィン、さっき、俺に『手っ取り早く言えば良いだろう』って言ったけど、お前だったらどう言うつもりだったんだ?」
リィンは案の定、不機嫌そうな顔で俺を見据えた。
かと思うと、口元に歪んだ笑みを浮かべる。
俺が驚いているのを愉しそうに見て、ゆっくりと口を開いた。
「『やることやればできる。』これで十分だ。」
確かに、手っ取り早い。
けど、けど・・・・・・・!!
「お前、何考えてるんだー!!!」
「確かに難点はあるな。何をやればいいのかといわれると、いちいち行為を説明せねばならなくなる。それがめんどくさいな。」
「リィン、頼むから、お前だけは絶対に説明しないでくれ。」
「やること?何をやるの?」
神殿長が疑問を口にする。
ものすごく嫌な予感がした。
「そうだな、手っ取り早く言えば――――「リィン!!」
「えー、気になるのに。」
「リムドに許可得てからにしてくださいね、神殿長。」
「えー・・・・・。」
夜、二人にお話をしてあげていたら、いつの間にか『お父さん』の話から脱線して、色々な物語の話になっていた。
そのせいかわからないけど、二人は翌日にはすっかりと赤ちゃんの話を忘れていた。
俺は覚えていたから言っても良かったんだけど、昨日ライトとブライトが疲れていたので、やめようと思った。
けど、どうしても気になって、こっそりリムドにきいてみた。
その後、1時間くらいずーっと説教らしきことをされたのだけは納得いかなかった。
終わり。
中途半端なネタのギャグ。
リィンはさらっと凄いこといえます。
ちらっと出た天使が云々っていうのは、こっちでいう「コウノトリ」のようなものです。
『つくりかた。』
子どもの純粋な一言というのは、時としてどんなものよりも始末に終えないものだと思う。
「ねぇねぇ、赤ちゃんって、どうやったらできるの?」
キラキラと輝く深緑の瞳に見つめられ、返答に困った。
助けを求めようと視線を彷徨わせると、ぽかんと口を開けたライトの姿が見えた。
リィンは黙って本を読んでいる。
聞こえていないはずは無いと思うのだが、ただ単に関わる必要は無いと判断したのだろう。
「ぼ、僕もしりたい・・・・・おしえて?」
今度は赤い瞳に見据えられる。
どちらも純粋な視線だ。
二人とも知的好奇心に旺盛だから、いずれ来るだろうとは思っていたけど。
「何の赤ちゃん?」
「ヒトの赤ちゃん!」
「そう。ヒトの、どの種族の赤ちゃんがいいの?」
二人の頭をよしよしと撫でつつ、尋ねた。
セイもハザードくんもきょとんとして首を傾げる。
可愛いけど、15歳。
「ヒトはね、種族によって赤ちゃんの生まれ方が違うんだよ。」
「えー・・・・・・じゃぁ、うーん・・・・・。」
二人は暫く小さな声で相談をしてから、声をそろえて言った。
「リィンとかブライトみたいなヒトの赤ちゃん。」
つまり、普通の人間族ってことか。
困ったなぁ・・・・・。
今この場で説明するのは、大変だ。
二人とも精神的に物凄く幼いとは言え、実年齢は15歳。
天使が連れてくるとか、そういう伝説的なものを教えるのは流石に、ちょっと気が引ける。
かといって、しっかりと説明するのは難しい・・・・・・というか。
「実は、俺も知らないんだけど・・・・・。」
「・・・・・は?」
ライトが呆然と呟いた。
「神殿に来てから、いろんな勉強を教えられて、その中に一応その話もあったんだけど、何故か人間族と、それと同じ種族のだけは教えてもらえなかったんだよ。」
「『神殿長』には珍しくも無い現象だ。周囲の人間がそういったものから遠ざけたがるから、教えないということがよくある。」
リィンが本から目を離さないまま補足してくれた。
あ、俺だけじゃなかったんだ、よかった。
「・・・・・マジですか。」
ライトが顔を抑えて呻いた。
このお子様たちをどうすれば良いだろうか。
リィンは元から参加していない。
神殿長はご存知じゃない。
ということで、二人の純粋なお子様は俺をじっと見つめている。
こういう子ども相手だと、どうやって説明すればいいのか分からない。
本当は嫌だけど、この際仕方ない。
相変わらず本から視線をはずそうとしないリィンに目を向けた。
「リィン、助けてくれ。」
「手っ取り早く言えば良いだろう。」
「言えるか!お前だったら言えるのか?」
「言えるが?」
当然というようにリィンが鼻で笑う。
こいつなら、本当に言いそうだ。
「やっぱり、俺が勉強して教えてあげればいいのかな。」
「・・・・・いや、良いです神殿長。俺が何とか二人に説明しますから。」
「できるのか?」
「や、やるさ!えっと・・・・。」
リィンに馬鹿にされてちょっとカッとなりつつ、頑張って考える。
いつまで経っても、全然思いつかなかった。
「もう!じれったいなぁ!ねぇねぇ、どうやったらできるの?やってみせてよー!」
「やっ・・・・・・!!一人でできるかー!!」
顔が一気に熱くなる。
思わず叫ぶと、リィンにはたかれた。
セイがじっと俺を見つめてきた。
「一人じゃできないの?」
「え・・・・・それは、まぁ。」
「じゃ、神殿長と二人でならできるー?」
「で・・・・・できるかぁあああぁああ!!」
「五月蠅い。」
もう一度、今度はさらに強くはたかれた。
頭を抑えつつ顔を上げると同時に、扉が開く音がした。
「どうしたライト?」
ブライトがひょこっと顔を覗かせる。
「ブライト・・・・・助けてくれ。」
「は?」
「ガキ二人が子どもの作り方を聞いてきたんだ。それも人間の。ライトの馬鹿が説明できないから、二人が実際にやって見せてくれと言ってきている。」
「マジか。」
リィンの率直過ぎる説明(ていうか、馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!)に、ブライトが軽く驚く。
その間にも、二人はねぇねぇと袖を引っ張ってくる。
「三人ならできるー?」
「いや、三人は要らないな。」
リィンがキッパリと答える。
「・・・・・イルとライトだと、できないの?」
ハザードがこくんと小首をかしげた。
まぁ、間違ってはいないので、頷いておく。
「じゃぁ、イルとリィンならできる?」
悪意のないその言葉に、俺は固まるしかなかった。
「いや、無理だなぁ。ていうか、想像できねぇ。」
「想像するな、気色悪い。」
ブライトの言葉に、リィンがきつくツッコミを入れる。
今ばかりはリィンが正しいと思う。
ツッコミひどいけど。
「じゃぁ、イルとブライトは?」
「・・・・・・できないなぁっていうか、あの、なんつーかさ、構図的にヤバイ。俺けっこう悪人面だし。」
「というか、何故イルは固定なんだ?」
「だって、神殿長お母さんだもん。」
「赤ちゃんって、おかあさんから生まれるんだよね。」
なんだ、それは知ってたのか。
普通に考えれば当たり前だが、この二人だとつい、そういうことも知らないのでは、と思ってしまう。
「それでいくと、父親候補が俺とライトとブライトということになるな。不愉快だから俺は抜かしておけ。」
「また自分勝手なことを・・・・・。」
叫ぶ気力も無く、ため息をつく。
セイたちは、きょとんとしていた。
そして、声をそろえて尋ねる。
「ねぇ、『ちちおや』って何?」
二人の言葉を理解するのに、どれだけの時間を要しただろう。
「・・・・・・お父さんのことだけど・・・・・知らないのか?」
「お父さんって何?何の種族?」
「セイ、『さん』ってつくから、ひとの名前かも。」
「あ、そっかぁ!」
二人は勝手に話を進めていく。
このままだと、物凄くおかしな知識が根付いてしまいそうだ。
不意に、神殿長がぽむ、と手を打った。
「・・・・・じゃ、こうしようか、二人とも。」
「?」
「今日、俺が『お父さん』について教えてあげる。だから、二人とも『お父さん』についてちゃんとわかったら、またライトやブライトに聞きにいこうね?」
「えー。すぐがいいー。」
「もう夜遅いから駄目だよ。早く寝ないと、背が伸びないよ?セイ、ブライトを抜かすんだって、張り切ってるのに、それでもいいの?」
「え、やだ。」
「僕もおっきくなれないのいや・・・・・。」
身長のことを引き合いに出され、二人はおとなしくなった。
ハザードはもともとかなり小柄だし、セイは割と背が高いが、目標が目標だけに、この話題はスルーできないのだろう。
「今日は三人で一緒に寝ようね。寝る前にお話してあげる。」
「ホントにー!?」
「いいの・・・・・?」
「うん。着替えたら俺の部屋においで。」
「はーい。」
無邪気な15歳の少年たちは、おとなしく従った。
急いでそれぞれの部屋に着替えに走る。
途中でハザードが転びそうになったが、多分大丈夫だろう。
「完全に、母親だな。」
リィンが呆れたように呟いた。
「精神年齢的には、母親が必要そうなお年頃でしょ。」
「ま、それもそうですね。」
ブライトと神殿長がくすくすと笑い合う。
リィンは視線を本に引き戻している。
一つ、気になることがあったので、聞いてみることにした。
後悔するかもしれないが、聞かなくても後悔する気がするし。
「リィン、さっき、俺に『手っ取り早く言えば良いだろう』って言ったけど、お前だったらどう言うつもりだったんだ?」
リィンは案の定、不機嫌そうな顔で俺を見据えた。
かと思うと、口元に歪んだ笑みを浮かべる。
俺が驚いているのを愉しそうに見て、ゆっくりと口を開いた。
「『やることやればできる。』これで十分だ。」
確かに、手っ取り早い。
けど、けど・・・・・・・!!
「お前、何考えてるんだー!!!」
「確かに難点はあるな。何をやればいいのかといわれると、いちいち行為を説明せねばならなくなる。それがめんどくさいな。」
「リィン、頼むから、お前だけは絶対に説明しないでくれ。」
「やること?何をやるの?」
神殿長が疑問を口にする。
ものすごく嫌な予感がした。
「そうだな、手っ取り早く言えば――――「リィン!!」
「えー、気になるのに。」
「リムドに許可得てからにしてくださいね、神殿長。」
「えー・・・・・。」
夜、二人にお話をしてあげていたら、いつの間にか『お父さん』の話から脱線して、色々な物語の話になっていた。
そのせいかわからないけど、二人は翌日にはすっかりと赤ちゃんの話を忘れていた。
俺は覚えていたから言っても良かったんだけど、昨日ライトとブライトが疲れていたので、やめようと思った。
けど、どうしても気になって、こっそりリムドにきいてみた。
その後、1時間くらいずーっと説教らしきことをされたのだけは納得いかなかった。
終わり。
中途半端なネタのギャグ。
リィンはさらっと凄いこといえます。
ちらっと出た天使が云々っていうのは、こっちでいう「コウノトリ」のようなものです。
『Starlight Party』
2006年4月29日 お題とてもよく晴れたある夜のこと。
俺たちは、何故か神殿の屋根の上にいた。
いるのは神殿長、リィン、俺の三人。
「さ、早く終わらせちゃおう。」
「そうだな。」
「あのー・・・・・俺何やるか知らされてないんデスけど。」
「あ、言ってなかったっけ?」
「ああ、言ってない・・・・・です。」
「別に今はライトいないんだし敬語必要ないと思うんだけどなぁ。」
「良いからとっとと説明してやれ。」
「あ、それもそうだね。今日はお客さんが来るんだけど、その人がお酒飲むから、一緒にお酒飲める人が必要でね。」
「あ、そういうことか。」
ぽん、と手を打って納得する。
そうか、客が・・・・・・客が?
「その客って、屋上に来るのか?」
「今日はね。」
どういう客なんだろう。
鳥人族とか?
「でも単なる荷物もちとかじゃなくて良かったですよ。」
背負ったままだった荷物を下ろすと、重そうな音がした。
一応慎重に下ろしたつもりだったんだけどな。
「重かったでしょ、ごめん。」
「別に大したことないって。これが酒?」
「そう。」
「随分大量だなぁ・・・・・。」
「あの人凄く飲むから。俺にもやたらと飲ませようとするんだよ?いつも他の人が止めてくれるんだけど。」
「誰なんだ?」
イルは暫く首を傾げてから、人差し指をぴんと立てて言った。
「ウイング君の上司・ジャスティスさん。」
そういわれて、ウイングのことを思い出す。
何度かそのジャスティスという人について話していたような気もするが、一度もいい話は聞いたことが無い。
だからリィンが不機嫌そうな顔をしているんだろうか?
一瞬そう思ったが、すぐにその考えは打ち消した。
リィンはいつだって不機嫌だ。
「そろそろ来る頃かなぁ。」
イルは何故か少し楽しそうだ。
「イル、そのジャスティスって人、どんな人なんだ?」
「う〜ん・・・・・いい人じゃないのは確かかな。」
「イルの基準で?」
「多分、よっぽど特殊な人でないと、あの人のことを『いい人』っていえないと思う。でも、それはそんなに気にする必要ないだろうし。」
「そういうもんか?」
俺が尋ねると、イルは何故か楽しそうに微笑んだ。
そして、俺に白い指をぴっと向けて。
「そういうものだよ。例えばブライト、リィンは『いい人』っていえる?」
「天地がひっくり返っても無理ですね。」
迷わずに即答した。
当のリィンは興味なさそうに本に視線を向けていた。
今夜は星と月が明るいが、流石にそれだけじゃ読めないと思っていたのか、ランプを持参していた。
基本的にめんどくさがりなリィンの、本に対する想いが垣間見えた気がした。
感心のような呆れのような曖昧な思いを抱いていると、身体に妙な違和感が走った。
「来たみたいだ。」
イルがそう言い終えると同時に、いくつかの気配が現れた。
その中で、見覚えがあるのは一人だけ。
「ウイング。」
「・・・・・お久しぶりです。」
ウイングの顔色が悪い気がする。
月光の所為ってことにしとこうか。
「よぉ久しぶりだな、インペリアル。」
思わずぞくりとするような魅惑的な低い声。
ウイングの隣に立つ男の声らしい。
闇のように黒い髪はイルと同じくらい長い。
血よりも赤い瞳は、仄かに光っているような気さえする。
肌は白く、全体的に何か不吉な感じがする。
「ジャスティスさん、久しぶり。今日はウイング君も一緒?」
「ああ。こいつが俺といるのを嫌がっていたからな。連れてきてやった。」
嫌がらせかよ。
「ジャスティス、あんまり彼を苛めちゃ駄目だって。君がどうしようもないほどサディストってことは知ってるけどさ。」
なんだか白い人がからかうように言う。
ふわっとした白い髪は肩まであって、肌は青白く、まとう服も白い。
「スノウシェイドさんも久しぶり。レイト君は元気にしてる?」
「うん。あ、そうそう冷人から君に伝言。『五月蠅いのがそっちに行くが、とりあえずよろしく頼む』だって。」
「うん、わかった。今日は3人?」
「そ。シリウスたちがちょっと都合悪くなって。」
シリウスって誰だ?
とりあえず、今日来た人は、ウイング、ジャスティス、スノウシェイド、というらしい。
「それより、そっちのは誰だ?」
「名前ならブライトだ。」
「ブライト?ああ、そういえばイルが言っていたな。腕のいい剣士だと。」
「それは光栄だ。」
剣を扱う俺にとっては、最大級に近い褒め言葉だ。
例えお世辞でもそれなりに嬉しい。
「リィン君は久しぶりだね。」
「・・・・・そうだな。」
「相変わらず不機嫌そうなツラしてるな。」
リィンは俺に絡むな、と言いたげな顔をしている。
何で来たんだろう。
「イル、何でリィンは来たんだ?」
「二人がリィンにも会いたいって言うから、必死に頼み込んだ。『歴史と神話の歩み』っていう本で。」
「・・・・・結局本か。」
リィンはどれだけ本が好きなんだ?
「まぁいい。とにかく飲むぞ。」
「ジャス、イルにあんまりお酒飲ませちゃ駄目だからね。」
「なんだと?それじゃ意味が無いだろうが。」
「ジャスティス様!」
「あのサディストは放っておいて、君も飲もう?」
白い人に突然肩を叩かれた。
そして、コップを押し付けられる。
「あ、どうも・・・・・えっと、スノウシェイドさん?」
「いいにくかったらスノウで良いよ。」
にこにこと楽しそうに笑っている。
つられて笑いながら空を見上げた。
満天の星空だ。
星に囲まれた月がやたらと綺麗だ。
「まぁ、夜空を見ながら酒ってのも、たまには悪くないか。」
「でしょ?いつも室内で飲んでるからね。たまには開放的に飲もうと思って。」
「わぁああああ!」
悲鳴のような声が聞こえて、その元を辿ると、ウイングがジャスティスに寝技のような物をかけられていた。
「やっぱりジャスティスさんとウイング君は仲がいいね。」
いつの間にかスノウさんの隣にいたイルがほのぼのと呟いた。
「そうでしょう?」
「まぁ確かに楽しそうだな。」
ジャスティスって人だけは。
ふとリィンの姿を探してみると、イルの隣で本を読んでいた。
飲まないのか?と言おうとして気づく。
リィン、未成年だったな。
とりあえず星空の下で、俺たちはほのぼのと酒を飲んだ。
終わり。
一年間に50のお題より。
不完全燃焼です。
『スノウシェイド』は雪影のことです。
俺たちは、何故か神殿の屋根の上にいた。
いるのは神殿長、リィン、俺の三人。
「さ、早く終わらせちゃおう。」
「そうだな。」
「あのー・・・・・俺何やるか知らされてないんデスけど。」
「あ、言ってなかったっけ?」
「ああ、言ってない・・・・・です。」
「別に今はライトいないんだし敬語必要ないと思うんだけどなぁ。」
「良いからとっとと説明してやれ。」
「あ、それもそうだね。今日はお客さんが来るんだけど、その人がお酒飲むから、一緒にお酒飲める人が必要でね。」
「あ、そういうことか。」
ぽん、と手を打って納得する。
そうか、客が・・・・・・客が?
「その客って、屋上に来るのか?」
「今日はね。」
どういう客なんだろう。
鳥人族とか?
「でも単なる荷物もちとかじゃなくて良かったですよ。」
背負ったままだった荷物を下ろすと、重そうな音がした。
一応慎重に下ろしたつもりだったんだけどな。
「重かったでしょ、ごめん。」
「別に大したことないって。これが酒?」
「そう。」
「随分大量だなぁ・・・・・。」
「あの人凄く飲むから。俺にもやたらと飲ませようとするんだよ?いつも他の人が止めてくれるんだけど。」
「誰なんだ?」
イルは暫く首を傾げてから、人差し指をぴんと立てて言った。
「ウイング君の上司・ジャスティスさん。」
そういわれて、ウイングのことを思い出す。
何度かそのジャスティスという人について話していたような気もするが、一度もいい話は聞いたことが無い。
だからリィンが不機嫌そうな顔をしているんだろうか?
一瞬そう思ったが、すぐにその考えは打ち消した。
リィンはいつだって不機嫌だ。
「そろそろ来る頃かなぁ。」
イルは何故か少し楽しそうだ。
「イル、そのジャスティスって人、どんな人なんだ?」
「う〜ん・・・・・いい人じゃないのは確かかな。」
「イルの基準で?」
「多分、よっぽど特殊な人でないと、あの人のことを『いい人』っていえないと思う。でも、それはそんなに気にする必要ないだろうし。」
「そういうもんか?」
俺が尋ねると、イルは何故か楽しそうに微笑んだ。
そして、俺に白い指をぴっと向けて。
「そういうものだよ。例えばブライト、リィンは『いい人』っていえる?」
「天地がひっくり返っても無理ですね。」
迷わずに即答した。
当のリィンは興味なさそうに本に視線を向けていた。
今夜は星と月が明るいが、流石にそれだけじゃ読めないと思っていたのか、ランプを持参していた。
基本的にめんどくさがりなリィンの、本に対する想いが垣間見えた気がした。
感心のような呆れのような曖昧な思いを抱いていると、身体に妙な違和感が走った。
「来たみたいだ。」
イルがそう言い終えると同時に、いくつかの気配が現れた。
その中で、見覚えがあるのは一人だけ。
「ウイング。」
「・・・・・お久しぶりです。」
ウイングの顔色が悪い気がする。
月光の所為ってことにしとこうか。
「よぉ久しぶりだな、インペリアル。」
思わずぞくりとするような魅惑的な低い声。
ウイングの隣に立つ男の声らしい。
闇のように黒い髪はイルと同じくらい長い。
血よりも赤い瞳は、仄かに光っているような気さえする。
肌は白く、全体的に何か不吉な感じがする。
「ジャスティスさん、久しぶり。今日はウイング君も一緒?」
「ああ。こいつが俺といるのを嫌がっていたからな。連れてきてやった。」
嫌がらせかよ。
「ジャスティス、あんまり彼を苛めちゃ駄目だって。君がどうしようもないほどサディストってことは知ってるけどさ。」
なんだか白い人がからかうように言う。
ふわっとした白い髪は肩まであって、肌は青白く、まとう服も白い。
「スノウシェイドさんも久しぶり。レイト君は元気にしてる?」
「うん。あ、そうそう冷人から君に伝言。『五月蠅いのがそっちに行くが、とりあえずよろしく頼む』だって。」
「うん、わかった。今日は3人?」
「そ。シリウスたちがちょっと都合悪くなって。」
シリウスって誰だ?
とりあえず、今日来た人は、ウイング、ジャスティス、スノウシェイド、というらしい。
「それより、そっちのは誰だ?」
「名前ならブライトだ。」
「ブライト?ああ、そういえばイルが言っていたな。腕のいい剣士だと。」
「それは光栄だ。」
剣を扱う俺にとっては、最大級に近い褒め言葉だ。
例えお世辞でもそれなりに嬉しい。
「リィン君は久しぶりだね。」
「・・・・・そうだな。」
「相変わらず不機嫌そうなツラしてるな。」
リィンは俺に絡むな、と言いたげな顔をしている。
何で来たんだろう。
「イル、何でリィンは来たんだ?」
「二人がリィンにも会いたいって言うから、必死に頼み込んだ。『歴史と神話の歩み』っていう本で。」
「・・・・・結局本か。」
リィンはどれだけ本が好きなんだ?
「まぁいい。とにかく飲むぞ。」
「ジャス、イルにあんまりお酒飲ませちゃ駄目だからね。」
「なんだと?それじゃ意味が無いだろうが。」
「ジャスティス様!」
「あのサディストは放っておいて、君も飲もう?」
白い人に突然肩を叩かれた。
そして、コップを押し付けられる。
「あ、どうも・・・・・えっと、スノウシェイドさん?」
「いいにくかったらスノウで良いよ。」
にこにこと楽しそうに笑っている。
つられて笑いながら空を見上げた。
満天の星空だ。
星に囲まれた月がやたらと綺麗だ。
「まぁ、夜空を見ながら酒ってのも、たまには悪くないか。」
「でしょ?いつも室内で飲んでるからね。たまには開放的に飲もうと思って。」
「わぁああああ!」
悲鳴のような声が聞こえて、その元を辿ると、ウイングがジャスティスに寝技のような物をかけられていた。
「やっぱりジャスティスさんとウイング君は仲がいいね。」
いつの間にかスノウさんの隣にいたイルがほのぼのと呟いた。
「そうでしょう?」
「まぁ確かに楽しそうだな。」
ジャスティスって人だけは。
ふとリィンの姿を探してみると、イルの隣で本を読んでいた。
飲まないのか?と言おうとして気づく。
リィン、未成年だったな。
とりあえず星空の下で、俺たちはほのぼのと酒を飲んだ。
終わり。
一年間に50のお題より。
不完全燃焼です。
『スノウシェイド』は雪影のことです。
『廊下は走っちゃいけません』
小学生の頃、何時もそういわれていたのを思い出した。
しかし、中学、高校と上がっていくにつれ、その認識は薄れ、生徒どころか教師までもが走っているというのに。
つまりは、小学生の頃とことん刷り込まれたあれは、一体何の効果があったやら。
小学校での衝突事故を減少させる効果だけはあったかもしれないが。
そんなくだらないことを考えながら、学校の廊下を駆け回る。
追いかけてくるのは、見たことの無い男子生徒。
そいつが、なぜか俺を鬼のような形相で追いかけてきていた。
顔は普通だけど、ガタイは滅茶苦茶いい。
俊敏さは無いから何とかなっているが、持久力は向こうの方がありそうだ。
長期戦には持ち込めない。
そう判断を下しつつ、とりあえず追いかけられている原因を究明しようとする。
「君、何で追いかけて来るわけ?」
「五月蠅い!おまえが、おまえが悪いんだっ!」
駄目だ、日本語が通じてない。
いっそのこと英語で話しかければ通じるだろうかと考えて、すぐにやめる。
かえって怒らせてしまいそうだ。
放課後で、グランドで騒ぐ運動部の声がうざったい。
人がコレだけ大変なときに。
ばたばたと騒がしく(主に後ろの奴が)走り回る所為で、教室にうだうだと残っていた生徒たちがたまに顔を覗かせては引っ込んでいく。
誰か助けてくれるとかそういう優しさと度胸(この場合は無謀さともいう)を持ち合わせた奴はいないのか。
逆の立場なら、俺は間違いなく見てみぬふりをするけど。
追っかけてくる奴は上履きの色からして一年だ。
俺は二年だから、向こうは下級生に当たるわけだ。
親しくもない奴にタメ口聞かれるのはむかつく、と思うのは俺の心が狭いからなのだろうか。
とにかく、逃げなければ。
俺のほうがこの学校に詳しい。
それを利用するしかないだろう。
階段を目指す。
廊下からじゃ上がってるか下がってるかは分からないから一瞬戸惑ってはくれるはずだ。
そしてその隙は大きいはず。
だからこそ、そこまでは少し距離を離さなければならない。
階段が間近に迫ったとき、力を振り絞って加速する。
ほんの少し、距離が開けた。
上には鍵のかかった屋上、下にはまだ道がある。
普通なら下に行くが・・・・・。
素早く判断を下し、俺は駆け上った。
上りながら、ポケットに手をつっこむ。
重みのある鍵束を取り出し、屋上の鍵を指先の感触で探り当てる。
鍵穴に差込み、素早く回す。
鍵を引き抜いて扉を押し開ける。
たったコレだけの動作がこんなにも長く感じたのはコレが初めてだ。
そしてコレが最後であって欲しい。
後ろ手で扉を閉め、鍵をかける。
直後に扉を叩く音と聞くに堪えない罵声が重い扉越しに聞こえてきた。
ギリギリ間に合った。
ほっと息をつく俺の背に、滑らかな声がかかる。
「お疲れ。」
「ああ、疲れたよ。そして君は、そんな俺を笑いに来たのかな、『古代の魔法使い』くん?」
「心配してきたんだよ。『現代の魔法使い』くんをね。」
振り返ったときに視界に入ったのは、くすくすと笑う同学年の男子生徒。
一つにくくられた長い黒髪がふわりと風に流れる。
優しげに見える顔はやたらと整っている。
文句なしに美形といえるくらいだ。
氷雨舜―――――通称『古代の魔法使い』。
一応、『現代の魔法使い』たる俺の友人だったりする。
偏屈同士の繋がりだけに、それなりに仲がいい、と俺は思っているが、向こうがどう思っているかは知らない。
「どうして追いかけられていたんだい?」
「知らないね。まぁ、これから調べるさ。」
ポケットを探って掌サイズの電子機器を取り出す。
片手でいじくること一分弱。
「『鈴木幸弘』1年B組出席番号17番。11月26日生まれ。得意科目は体育、苦手科目は数学と古典。サッカー部所属。兄が二人と妹が一人、両親含め6人家族だ。好きな女子は2年A組出席番号2番、飯田由香菜。―――――ああ、だからか。」
「その子って確か、やたらと君にお菓子あげたりとかしてた子?」
「ああ。」
「つまりは、嫉妬?」
「そんな感じだろう。」
「それはまぁ・・・・・まだ入ってきたばかりだっていうのに、お盛んなことで。」
「まったくだ。」
まだ喚きたてる一年生を見てため息をつく。
「まだ一年生たちには俺たちの噂が知れ渡ってないみたいだね。」
舜が形のいい唇を笑みの形に吊り上げる。
何か企んでいるときの顔だ。
「何を企んでるのかなー?『古代の魔術師』くん?」
「この学校のことを教えてあげるのも、先輩の役目だって思わない?」
「古と現の魔法使いのことを、か?」
「敵に回してはいけない者のことを、だよ。」
「まぁそれも一興か。」
俺まで楽しくなってきた。
その翌日、『古代の魔法使い』と『現代の魔法使い』の話が、一年生の間に広がっていたという。
その噂を聞くたびに血の気の引いた顔で身体を震わせる、哀れな少年の名前と共に。
<終わり>
一年間で50のお題「02 魔法使い」
小学生の頃、何時もそういわれていたのを思い出した。
しかし、中学、高校と上がっていくにつれ、その認識は薄れ、生徒どころか教師までもが走っているというのに。
つまりは、小学生の頃とことん刷り込まれたあれは、一体何の効果があったやら。
小学校での衝突事故を減少させる効果だけはあったかもしれないが。
そんなくだらないことを考えながら、学校の廊下を駆け回る。
追いかけてくるのは、見たことの無い男子生徒。
そいつが、なぜか俺を鬼のような形相で追いかけてきていた。
顔は普通だけど、ガタイは滅茶苦茶いい。
俊敏さは無いから何とかなっているが、持久力は向こうの方がありそうだ。
長期戦には持ち込めない。
そう判断を下しつつ、とりあえず追いかけられている原因を究明しようとする。
「君、何で追いかけて来るわけ?」
「五月蠅い!おまえが、おまえが悪いんだっ!」
駄目だ、日本語が通じてない。
いっそのこと英語で話しかければ通じるだろうかと考えて、すぐにやめる。
かえって怒らせてしまいそうだ。
放課後で、グランドで騒ぐ運動部の声がうざったい。
人がコレだけ大変なときに。
ばたばたと騒がしく(主に後ろの奴が)走り回る所為で、教室にうだうだと残っていた生徒たちがたまに顔を覗かせては引っ込んでいく。
誰か助けてくれるとかそういう優しさと度胸(この場合は無謀さともいう)を持ち合わせた奴はいないのか。
逆の立場なら、俺は間違いなく見てみぬふりをするけど。
追っかけてくる奴は上履きの色からして一年だ。
俺は二年だから、向こうは下級生に当たるわけだ。
親しくもない奴にタメ口聞かれるのはむかつく、と思うのは俺の心が狭いからなのだろうか。
とにかく、逃げなければ。
俺のほうがこの学校に詳しい。
それを利用するしかないだろう。
階段を目指す。
廊下からじゃ上がってるか下がってるかは分からないから一瞬戸惑ってはくれるはずだ。
そしてその隙は大きいはず。
だからこそ、そこまでは少し距離を離さなければならない。
階段が間近に迫ったとき、力を振り絞って加速する。
ほんの少し、距離が開けた。
上には鍵のかかった屋上、下にはまだ道がある。
普通なら下に行くが・・・・・。
素早く判断を下し、俺は駆け上った。
上りながら、ポケットに手をつっこむ。
重みのある鍵束を取り出し、屋上の鍵を指先の感触で探り当てる。
鍵穴に差込み、素早く回す。
鍵を引き抜いて扉を押し開ける。
たったコレだけの動作がこんなにも長く感じたのはコレが初めてだ。
そしてコレが最後であって欲しい。
後ろ手で扉を閉め、鍵をかける。
直後に扉を叩く音と聞くに堪えない罵声が重い扉越しに聞こえてきた。
ギリギリ間に合った。
ほっと息をつく俺の背に、滑らかな声がかかる。
「お疲れ。」
「ああ、疲れたよ。そして君は、そんな俺を笑いに来たのかな、『古代の魔法使い』くん?」
「心配してきたんだよ。『現代の魔法使い』くんをね。」
振り返ったときに視界に入ったのは、くすくすと笑う同学年の男子生徒。
一つにくくられた長い黒髪がふわりと風に流れる。
優しげに見える顔はやたらと整っている。
文句なしに美形といえるくらいだ。
氷雨舜―――――通称『古代の魔法使い』。
一応、『現代の魔法使い』たる俺の友人だったりする。
偏屈同士の繋がりだけに、それなりに仲がいい、と俺は思っているが、向こうがどう思っているかは知らない。
「どうして追いかけられていたんだい?」
「知らないね。まぁ、これから調べるさ。」
ポケットを探って掌サイズの電子機器を取り出す。
片手でいじくること一分弱。
「『鈴木幸弘』1年B組出席番号17番。11月26日生まれ。得意科目は体育、苦手科目は数学と古典。サッカー部所属。兄が二人と妹が一人、両親含め6人家族だ。好きな女子は2年A組出席番号2番、飯田由香菜。―――――ああ、だからか。」
「その子って確か、やたらと君にお菓子あげたりとかしてた子?」
「ああ。」
「つまりは、嫉妬?」
「そんな感じだろう。」
「それはまぁ・・・・・まだ入ってきたばかりだっていうのに、お盛んなことで。」
「まったくだ。」
まだ喚きたてる一年生を見てため息をつく。
「まだ一年生たちには俺たちの噂が知れ渡ってないみたいだね。」
舜が形のいい唇を笑みの形に吊り上げる。
何か企んでいるときの顔だ。
「何を企んでるのかなー?『古代の魔術師』くん?」
「この学校のことを教えてあげるのも、先輩の役目だって思わない?」
「古と現の魔法使いのことを、か?」
「敵に回してはいけない者のことを、だよ。」
「まぁそれも一興か。」
俺まで楽しくなってきた。
その翌日、『古代の魔法使い』と『現代の魔法使い』の話が、一年生の間に広がっていたという。
その噂を聞くたびに血の気の引いた顔で身体を震わせる、哀れな少年の名前と共に。
<終わり>
一年間で50のお題「02 魔法使い」
穏やかな風が吹きぬける。
季節は春。
出会いと別れの季節、なんて詩的な表現をする者もいるが、国語の課題で出された詩を書くにあたり、一般的なものを書こうと期間いっぱいまで費やし、結局は適当に書いたものをだしたら教師に苦笑された俺には、まったく無縁の話だ。
それでも、いや、それだからこそかもしれないが、この『春』と名づけられた季節は好きだと思う。気温は丁度良くて太陽光も程よく暖かく、過ごしやすい。
花粉症には今のところなっていないから、その余裕もあるのかもしれない。数少ない友人の中には花粉症がひどく、春が来ることを嘆いている連中もいたから。
それはそれで良い。所詮他人は他人だ。俺は俺の価値観を貫けばそれでいい。
俺は春が好きだ。
春は、桜の季節だから。
名も知らないがとりあえず同居している相棒が、このところ沈んでいる。
原因は窓から見える景色。正確にはその一部を彩る季節の花。
その花、桜の花はもう殆ど散っていて、薄紅色の花の代わりに、新緑の葉が枝に張り付いている。
相棒は尋常じゃないほど桜に執着している。
俺も春は好きだし、桜も割りと好きなほうだが、あいつには勝てる気がしない。そもそも勝つ気さえ起きない。
桜が散ったことによって、軽く落ち込んでいるようだ。
春を迎えるたびにこの状況になるのは、流石に勘弁して欲しいと思う。しばらくすればまたいつもどおりに戻るとわかっていても、気分のいいものではない。五月蠅いよりはましかもしれないと思ったこともあったが、結局沈んでても五月蠅いという事実に行き着いてしまい、こみ上げてくるため息を堪えることはできなかった。
故に、離れていたいと思うのだが、何処へ行っても親に懐くひよこの如く付いてきやがるため、それもできない。ここまでくると、お前歳はいくつだと襟首掴んで思い切り揺さぶり、壁に頭をわざとぶつけさせたりしながら尋問したくなってくる。
ため息をつき、せめて空気を入れ替えようと窓を大きく開けた。
冬に比べれば格段に心地いい春の風が吹き込んでくる。
近くの壁にもたれかかり、、柔らかな日差しを浴びると、徐々に睡魔が忍び寄ってくる。そういえば、昨夜は眠りにつくのが遅かったなと思い出す。欠伸をどうにか噛み殺し、眠ろうぜ、と訴える本能を眠気に押され気味な理性で押さえつけ、今日は何か予定が有ったかどうか記憶を引っ張り出す。
確か無い、筈。
既にだるい腕を伸ばして、近くにあった毛布を手繰り寄せる。片付けなかったことがこんなところで役立つとは思わなかった。寝てから片付けよう。相棒が寄ってきたが、とりあえず気にしないでいよう。今の俺に声をかけるほど、コイツも馬鹿ではないはずだ。放っておいてとにかく寝よう。
結論付けて、毛布に包まる。まだ何も無しで寝るには少し寒い。春風に少し伸びてきた髪が弄られる。そろそろ切ったほうが良いか。そんなことを思いながら、目を閉じて眠りへと落ちた。
風が吹きぬける。
厳しい季節を越えた後の風は、どこまでも心地よく。
新たな季節を祝福するかのように、ひたすらに駆け抜けていった。
<終わり>
一年で50のお題より、4月のお題「01 春風の祝福」でした。
短いです。
季節は春。
出会いと別れの季節、なんて詩的な表現をする者もいるが、国語の課題で出された詩を書くにあたり、一般的なものを書こうと期間いっぱいまで費やし、結局は適当に書いたものをだしたら教師に苦笑された俺には、まったく無縁の話だ。
それでも、いや、それだからこそかもしれないが、この『春』と名づけられた季節は好きだと思う。気温は丁度良くて太陽光も程よく暖かく、過ごしやすい。
花粉症には今のところなっていないから、その余裕もあるのかもしれない。数少ない友人の中には花粉症がひどく、春が来ることを嘆いている連中もいたから。
それはそれで良い。所詮他人は他人だ。俺は俺の価値観を貫けばそれでいい。
俺は春が好きだ。
春は、桜の季節だから。
名も知らないがとりあえず同居している相棒が、このところ沈んでいる。
原因は窓から見える景色。正確にはその一部を彩る季節の花。
その花、桜の花はもう殆ど散っていて、薄紅色の花の代わりに、新緑の葉が枝に張り付いている。
相棒は尋常じゃないほど桜に執着している。
俺も春は好きだし、桜も割りと好きなほうだが、あいつには勝てる気がしない。そもそも勝つ気さえ起きない。
桜が散ったことによって、軽く落ち込んでいるようだ。
春を迎えるたびにこの状況になるのは、流石に勘弁して欲しいと思う。しばらくすればまたいつもどおりに戻るとわかっていても、気分のいいものではない。五月蠅いよりはましかもしれないと思ったこともあったが、結局沈んでても五月蠅いという事実に行き着いてしまい、こみ上げてくるため息を堪えることはできなかった。
故に、離れていたいと思うのだが、何処へ行っても親に懐くひよこの如く付いてきやがるため、それもできない。ここまでくると、お前歳はいくつだと襟首掴んで思い切り揺さぶり、壁に頭をわざとぶつけさせたりしながら尋問したくなってくる。
ため息をつき、せめて空気を入れ替えようと窓を大きく開けた。
冬に比べれば格段に心地いい春の風が吹き込んでくる。
近くの壁にもたれかかり、、柔らかな日差しを浴びると、徐々に睡魔が忍び寄ってくる。そういえば、昨夜は眠りにつくのが遅かったなと思い出す。欠伸をどうにか噛み殺し、眠ろうぜ、と訴える本能を眠気に押され気味な理性で押さえつけ、今日は何か予定が有ったかどうか記憶を引っ張り出す。
確か無い、筈。
既にだるい腕を伸ばして、近くにあった毛布を手繰り寄せる。片付けなかったことがこんなところで役立つとは思わなかった。寝てから片付けよう。相棒が寄ってきたが、とりあえず気にしないでいよう。今の俺に声をかけるほど、コイツも馬鹿ではないはずだ。放っておいてとにかく寝よう。
結論付けて、毛布に包まる。まだ何も無しで寝るには少し寒い。春風に少し伸びてきた髪が弄られる。そろそろ切ったほうが良いか。そんなことを思いながら、目を閉じて眠りへと落ちた。
風が吹きぬける。
厳しい季節を越えた後の風は、どこまでも心地よく。
新たな季節を祝福するかのように、ひたすらに駆け抜けていった。
<終わり>
一年で50のお題より、4月のお題「01 春風の祝福」でした。
短いです。