『Waivy』

2006年5月16日 お題
酔っ払いくらい厄介な存在も珍しい。

神殿で年に数回ある強制参加のイベント。
日が暮れた後、石畳の中庭に大勢が火を囲んで座り込んでいる光景はなかなか笑えるが、その人ごみ構成員の一部に自分が入っているとなるとウンザリする。
長引くだろうと予想して、一応ランプと本を三冊くらいは持ってきた。
まぁ、少年にはいい刺激になるかもしれないな。
夜だから少年も日よけセットを外して外で遊べて面白いらしい。
他の奴らに面倒を押し付けられるし。
「というわけだ。イルとかセイとかライトのところに行け。」
「うん!」
少年はパタパタとセイの方へ駆けていった。
真っ先にイルの所に行くものだと思っていたのだが、少し意外だったな。
・・・・・と思っていたら、二人は揃ってイルの所に突進した。
面白そうだから暫く観察しようかとも思ったが、それもめんどくさい。
できるだけ人混みから離れて、ランプをともす。
本を開いたとき、誰かが近づいてくるのが分かった。
「ブライトか。」
「ぅお、さすがリィン、見ないでもわかるとは。」
「どうでもいい、何の用だ。」
「飲み物配布係。二杯目以降は他の奴が配りに来ると思うけどな。」
「で、これは?」
「未成年用の飲み物。」
「へぇ・・・・・。」
もらったグラスを観察する。
薄い琥珀色の液体。
あまり見たこと無いな。
微かに妙な匂いもする気がする。
「これ、何だ?」
「ジュースだと思うけど・・・・・。」
「本気で言ってんのか?」
「?ああ。」
「飲んでみろ。」
「?」
首をかしげながらもブライトが口をつけた。
そして、しばしの沈黙。
「・・・・・これ、アルコール入ってるな。誰かが造るときに間違ったんだろ。プロじゃないんだし、当然といえば当然か。」
「そういえば今夜の飲み物は、厨房の奴らが造ってるんだったな。」
「ああ。ここで造る酒って、特殊工程踏んでるから身体には残らないし。未成年衆が飲んでも大して問題ないだろ。」
「一応酔うのか?」
「まぁ、一応な。でなきゃ意味ないし。」
「なるほど・・・・・頑張れ、ブライト。」
「は・・・・・?ま、とりあえずリィンも飲めよ。身体には悪くないし。」
「それはわかる。悪かったらお前が飲むはず無いからな。剣の腕を一時の快楽の為に捨てるような奴じゃないだろ、お前は。」
「まぁ、そりゃな。お前も楽しめよ。」
グラスを押し付け、ブライトは去っていく。
これでようやく読書ができる。
とりあえず一口飲んでみた。
程よい甘さが広がる。
・・・・・だが、読書の邪魔だな。
グラスをその辺に放置して、本に視線を向けた。

「ふにゃ・・・・・イル〜。」
ハザード君がぴたっと膝にくっついてきた。
顔が赤いし、なんとなくだるそうだ。
「ハザード君、風邪?」
「あうぅ〜・・・・・わかんない。」
よしよしと頭を撫でると、何故か目が潤みだした。
目を閉じて、掌に気を集中させる。
体の温度が少し上がってるけど、それ以外に特に異常は無い。
風邪ではなさそうだけど・・・・・。
正式に医者に見せたほうがいいのかな、と思っていたら、後ろから衝撃が来た。
「セイ!?」
「しんでんちょー!ハザードばっかりかまってずるーい!!もっとおれとあそんでー!」
どうにか動く首を回して、セイを見た。
何か楽しい事でもあったのか、とても楽しそうに笑っている。
顔は赤かった。
えーと・・・・・もしかして、これは。
「二人とも、酔ってる?」
「あうぅ?」
「えー、よってるってなにがよってるの?」
二人とも呂律が回ってない。
完全に、酔ってる。
「あ、遅かったか。」
「ブライト。」
「未成年用のほうも、造る奴が間違ってアルコール入ったみたいで。」
「あぁ、それで・・・・・二人とも、あんまり飲んで無かったとは思うんだけど。」
「見るからに酒弱そうだし。ほら、ハザードもセイも一回神殿長から離れようなー?そのままだと神殿長が動けないぞ?」
ブライトはそう言って二人を引き剥がした。
俺としては、別にこのままでも良かったんだけど。
「あうぅ〜・・・・・ぶらいと、ひどい。」
ハザード君の頬に透明な液体が流れた。
率直に言えば、涙。
「え・・・・・いや、べつにそういうつもりじゃないんだけど・・・・・。」
「えう・・・・・うぅ・・・・・うわぁあああん!」
ハザード君が、本格的に泣き出した。
「ぶらいと、ひどい〜・・・・・・!」
ブライトがたじろいでいると、セイが二人を指さして笑い出した。
「あはははははは・・・・・・ふたりともおもしろーい!」
「えうぅ・・・・・ひどいよぅ!」
「ハザード君、とりあえず落ち着いてね。」
頭を撫でても、ハザード君は泣き止まなかった。
「えう・・・・・ふぇ・・・・・いるがやさしいよぅ・・・・・。」
「・・・・・ハザード君は、完璧に泣き上戸みたいだね。」
「セイは、笑い上戸か。とりあえずコレ飲んで落ち着け。」
ブライトが差し出したコップを、二人はおとなしく受け取った。
「・・・・・これ以上飲ませていいの?」
「さっさと潰した方が楽です。」
「それもそうだけど、ここで寝たら風邪ひくよ。二人は早めに部屋に帰してあげたほうがいいんじゃないかな。」
「やだー!まだあそぶー!」
「あうぅ・・・・・ねるのやだ!」
「こらー!ふたりとも!!」
聞き覚えのある怒鳴り声。
向いてみると、やっぱりそこにはライトがいた。
ライトも顔が真っ赤だ。
怒りで高潮してる、だけじゃなさそう。
「しんでんちょうに迷惑をかけるなっていつもいってるだろ!」
微妙に呂律が回ってない。
彼も彼で十分酔ってるようだ。
セイは怒鳴るライトを指して、けらけらと笑う。
「あははは!ライト、おもしろぉい!」
「ふぇ・・・・・らいとがどなった〜・・・・・!」
「大丈夫、二人がくっついてても迷惑なんかじゃないから。ね?」
「あはは・・・・・完璧にお母さんですねぇ神殿長。」
ブライトがいつもどおり朗らかに言う。
そういえば彼はかなり酒に強かったっけ。
「じゃ、とりあえずお子様三人は何処か室内に放置してきますよ。他二人はともかく、ハザードはうっかり屋外に放置したまま寝たりしたら大変だし。」
「うん、お願いするよ。」
ブライトは泣いているハザード君をひょいと抱き上げて、肩に乗せた。
肩車の体勢だ。
そして、セイに飲み物を渡し、それから右脇に抱えた。
「ライト、ちょっとこっち来い。」
「?」
酔いが回っている所為か、おとなしくライトが寄ってきた。
そんなライトのお腹に、左手で鋭く拳を叩き込んだ。
倒れこんだところで、さっと上手く左脇に抱えた。
「ハザード、しっかりつかまってろよ。」
「う、うん。」
泣きそうな顔で、ハザード君が頷いた。
セイは飲み物を飲みながら楽しそうに笑っている。
「じゃ、ちょっとしたら戻ってくるので。」
そういうと、ブライトは重みを苦にしていないような足取りで歩いていった。
やっぱり鍛えてる剣士だからかな。
なんだか父親みたいだなぁ。
何となく微笑ましく思いながら、グラスに残っていた飴色の酒を飲み干した。

お子様たちは、部屋に着くなり健やかに眠り始めた。(その内一人はもともと寝てた)
この調子なら大丈夫っぽいから、さっさと戻って飲みなおそう。
そんなに時間は経っていないと思ったんだが戻ってみたらすごいことになってた。
酔っ払いの数が尋常じゃない。
まぁ、楽しくていいか。
まさか剣を抜くような奴はいないだろうし。
剣士仲間と暫く飲んだ後、そういえばイルはどうしてるかなぁと気になって、ビンとグラスを持って一緒に飲みにいくことにした。
「神殿長、一緒に飲みましょー。」
「あ、ブライト。いいねぇ、飲もうか。」
のほほんと微笑んで、グラスを傾ける。
そんな仕種もやけに優美に見えた。
「神殿長、話は聞いてましたけど、結構強いみたいですね。」
「まぁね。でも、飲み過ぎないように注意しないといけないんだよ。一定量超えると記憶なくなるから。」
「一定量ってどのくらいですか?」
「量ったことないからよくわかんないや。」
俺が気をつけよう、と思わないでもないが、コレまでどのくらい飲んでいたのかわからないから注意しようがない。
「やっぱり美味しい。あ、ブライトのお酒とちょっと違うね。一口交換しない?」
「いいですよ。」
飴色のそれは、俺には少し甘かった。
「ブライトの、苦いね。」
「俺はこういうほうが好きなんで。」
交換したグラスを戻しあったとき、くらりと軽い酩酊感を感じた。
甘いと思って軽く見ていたが、これはこれで結構強い奴だと忘れてた。
「神殿長、本当に強いですね。」
「そうかなぁ?」
神殿長は首をかしげながら、残っていた酒を飲み干した。
その途端、くらっと軽く身体が揺れた。
「大丈夫ですか?」
「ん・・・・・平気平気。」
そう言って微笑む。
頬が微かに紅色に染まり、目の焦点は微妙に合ってない。
少し酔いが回ってきたのかもしれない。
「とりあえず、あんまり飲み過ぎないようにしてください。」
「敬語は嫌。いいじゃない。二人で飲んでるんだから。こういうときまで敬語使われたら嫌だよ。」
「あー・・・・・・わかったよ。じゃ、飲み過ぎないように気をつけてくれよ。」
「うん。」
楽しそうにイルが微笑んだ。
酔ってる所為もあって、可愛い。
「ブライトは酔わないの?」
「ちょっと酔いが回ってきてますよ。今すごい陽気な気分です。」
「そっか。俺もちょっと酔ってるかも。なんか熱いし。」
ぱたぱたと扇いでいる。
本当に熱そうだ。
「本当に熱いなぁ・・・・・。脱いじゃってもいい?」
「まぁ、いいんじゃないか?上着くらいならさ。」
イルは嬉々として脱ぎだした。
上着を脱ぎ終わると、すぐにその下に手をかけた。
「上着までにしとけって。」
手首を取って止めた。
イルが不満そうな声を漏らし、顔を上げて俺を見上げてきた。
銀色の睫毛でやや隠れている、酔いの所為で潤んでいる紫の瞳に俺の姿が映っていた。
一気に酔いが吹っ飛んだ。
「駄目だからな。」
「だって、まだ熱いんだもの。」
・・・・・・えーと
「完璧に酔ってるな。」
「だな・・・・・って、リィン。」
「リィン!どうしたの?リィンも飲む?」
「帰るぞ。」
「えー?」
「もう三冊読み終わったからな。帰るぞ。」
「あ、そうなの?じゃ帰る〜。」
イルは楽しそうに笑いながら立ち上がった。
「は?」
「今日は強制参加だ。だが、朝まで出るつもりは無かったから、とりあえず本を何冊か読み終わったら帰るという約束だった。といっても、一冊分くらいじゃ帰れなさそうだったからな。とりあえず三冊にした。このくらいなら殆どの奴が酔ってるから抜けてもばれにくい。」
「それで、俺はリィンの部屋に泊まるの。朝まで飲むとリムドに怒られるし、部屋に帰ると明日の朝すぐに起こされちゃうかもしれないから。」
「はぁ・・・・・なるほどな。」
二人は入念に計画を立てていたらしい。
ふと、リィンが、イルの近くにあったビンを拾い上げた。
「これは?」
「さっきまでイルが飲んでたものだ。」
「まだ残ってるな。ブライト、飲むか?」
「いや、やめとく。」
「かといって、こいつが飲んだ後だと他の奴が飲みたがらないだろ。」
「あー・・・・・まぁいろいろあるな。」
「えー?」
イルは明らかに不満そうだ。
けどなぁ・・・・・。
「仕方ないな。」
リィンはため息をつくと、ビンに直接口をつけて一気に煽った。
予想外の行動に少し驚いた。
顔をしかめて、口のあたりを拭った。
「甘いな。」
「リィン凄いね。」
感想を呟くリィンに賞賛の声をかけるイル。
「いや、そうだけどさ、お前飲むのか?」
「それなりにな。飲むものが無いからとりあえずさっきまで飲んでいたし。」
「へぇ、意外だ。」
「別にこういう場でくらいは飲むぞ・・・・・おいイル。ここで脱ぐな。部屋で脱げ。」
「はーい。」
「ははは、二人は本当に仲がいいなぁ・・・・・って、おい!」
今、さらっと凄いこと言った気がする。
「部屋で着替えるくらい、別に男同士なんだからいいじゃない。」
「着替え?」
「寝間着に着替える必要があるだろう?」
「あ、そうか。」
「何を考えてたんだ、お前。」
呆れたようにいわれて、とりあえず適当に笑って誤魔化しておいた。
二人は人のいないほうを通り、部屋へと戻っていった。
誰か誘って飲もうと見回すと、ビンと何人かの人間が転がっている地帯があることに気が付いた。
近づいてみると、転がっている連中の内、一人はまだ意識があるようだった。
戦士じゃない・・・・・あ、確か学者たちのところで見たことあるな。
「どうしたんだ?」
「あー・・・・・リィンと飲みながら遺跡についての話とかしてたんですけど・・・・・リィンがあまりにあっさり飲んでるから付き合って飲んでたら、つい・・・・・。」
「まさか、ここのビン全部お前らで開けたのか?」
「う・・・・三分の一くらいは・・・・・リィンだと思います・・・・・。」
眺めてみると、割と強めのがごろごろと並んでいた。
リィンはちっとも酔った様子が無かった。
あれで酔ってたとかだったら笑えるけどさ。
とりあえずまだ飲んでる戦士連中を捕まえて飲みなおすことにした。
その途中で、木に向かってぶつぶつと話しかけるリムドの姿が見えたけど、とりあえず気にしないでおくことにした。

終わり。

不完全燃焼。
タイトルが結局分からなかったので、適当に書きました。

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