無題。

2006年8月29日
凄くぐったりしています。
眠い。
ていうか眠い。
要するに眠い。


というわけで、今日はとっとと小説に入ります。
今日で『何でも屋編』は終わりの筈。


『勿忘草の追憶』
第六話


依頼を受けて二日目。俺たちは同じ喫茶店で依頼人と向かい合っていた。テーブルにはコーヒーや紅茶が並び、中央には白く分厚いアルバムがある。依頼人は放心したようにそれを手に取り、中身を確かめた。目が大きく見開かれる。
「凄い・・・・・どうして、こんなに早くわかったんですか?」
「企業秘密です。」
弟にヒントを貰いましたなんて恥ずかしすぎて言える筈が無い。
「でも、どうやって空き巣を見つけたんですか?」
「いや、空き巣は関係なかったんですよ。」
「というと?」
依頼人は首をかしげている。相棒は紅茶に砂糖とミルクを大量に投下している。入れすぎは身体に悪いぞ。
「空き巣の件と、アルバムの紛失は無関係だったんです。」
「では、これは何処にあったんですか?」

「墓前ですよ。」

依頼人がぽかんと口を開け、「墓前?」と鸚鵡返しに言った。
「そうです。貴方の親友の。」
彼は暫く放心して、その後徐々に何かを思い出したかのように身体から力を抜いた。それでも俺はさらに続ける事にした。
「8月15日周辺は、多くのところではお盆です。本当なら一月早いんですけど一般的には8月ですね。貴方は日曜日から空き巣に遭った金曜日までの間に休暇をとり、墓参りに行ったのではないですか?貴方の発言を信じるなら、貴方はそのアルバムを他のアルバムよりも大事にしていた。貴方なら、そんな親友の墓参りに行っただろうと思ったんです。それで、もしかしたらそのときにアルバムも持って行ったんじゃないかと思ったんですよ。」
「そう・・・・・確かに、私は・・・・・親友の墓参りに・・・・・あぁ・・・・・そのとき。」
依頼人はうわ言の様に呟く。その瞳は、何処か虚ろだった。
「そういうことです。雨が降らなくてよかったですね。」
俺の見当違いな言葉にも、「そうですね。」と頷いた。ちょっとヤバイかもしれない。でもまぁ、俺には関係ないことだ。
「とりあえず、これで以来は完遂です。空き巣は警察の人が見つけてくれますよ、多分。」
「そうですね。ありがとうございました。」
彼はそういうと、ぺこりと頭を下げた。何処か違和感があった。
とりあえず依頼料を貰って、依頼人に別れを告げた。ふらふらとおぼつかない足取りで去っていく依頼人が少し気になったが、俺には関係が無いだろう。ぬいぐるみを眺めている相棒は、きっと依頼人の顔など忘れているだろう。


野菜を切っていると、居間から相棒の声がした。
「ねぇ相棒。ワスレナグサはどうして入れられたんだろうね?」
「依頼人曰く、依頼人の親友が好きだった花だから願懸けに入れたそうだぞ。」
「それじゃ依頼人の親友はどうしてワスレナグサが好きだったんだろうね?」
「そんなの依頼人本人に聞けばよかったろ?」
「多分、あの人忘れてるよ。」
それは確かに言えている。
「でも、気になるんだよねぇ。」
「何故だ?」
「わかんないけど、何となく。」
「どうせお前は明日になれば忘れるだろ。あの依頼人以上に忘れっぽいんだ。」
コイツの場合は、覚えておく気が無いから、というだけなのだが。しかし、それを言えば俺も記憶力は無い方だろう。親の顔などとっくに忘れているし、現在同居中の相棒の名前も知らないし唯一の家族である弟の名前さえ未だに覚えていない。相棒と同様に覚えておく気が無いからだ。
野菜を刻み終えて、ため息をついた。仕方ない。
「相棒、俺のケータイ取ってくれ。」
「弟君に電話?次の帰省の連絡でもするの?」
「相手は合っているが、まだ決まってないことをどうやって電話するんだ?」
「じゃ、何を?レシピ忘れたとか?」
「そんなんじゃない。敢えて言うなら・・・・・。」
「言うなら?」
「アフターサービス。」
きっぱりと言いながら、呼び出し音を聞いた。


終わり?

『勿忘草』の『何でも屋』編はこれで終わりです。
こっちはちょっと推理風。
明日からは何でも屋の弟たち、『魔法使い』編です。
そっちで完全に謎解きです。


では、今日はこれくらいで失礼します。

コメント