休み明け
2006年9月1日とりあえず遅刻はしませんでした。
久々に行った学校は、図書室が使いにくくなっていました。
暫くは上履きを脱いで入らなきゃならないそうです。
しゃばけを返し、有栖川有栖さんの「46番目の密室」と京極夏彦さんの「巷説百物語」を借りました。
んで、今日ようやく「鉄鼠の檻」を読み始めました。
読んでも読んでもページがあるって嬉しいですね!
では、今日はとっとと小説に入ります。
『勿忘草の追想』
第二話
いつもの喫茶店の定位置に陣取り、軽食を頼んでから近況を報告する。とはいっても、<あの花は依頼の手紙に同封されていた>と云う事しか分かっていないわけだから、メインは朝食かもしれない。
「依頼人が何処の誰なのか、君でも分からない?」
「いくらなんでも情報が少なすぎる。消印でも分かればもう少し絞り込めたが、流石にそれは怪しまれる。情報を手に入れられなくなればさらに不便になるからね。」
俺もまだまだと云うことだ。
「もっと情報収集の力を上げないとな・・・・・。」
「聖、俺は今のままで十分だと思うよ。とりあえず、何か進展があったら、また電話してね。」
「わかっているよ。」
その後は、とりあえず適当に世間話をして過ごした。
兄貴から電話がかかってきたのは、夕飯でも作ろうと台所に立った頃だった。テーブルの上に放置した携帯電話をとれば、もしもし?とか言う間もなく兄貴の声が聞こえた。
「そんなわけで、名探偵、出動を要請する。」
『いきなりワケの分からないことを抜かさないでくれる?まず、順を追って説明してくれよ。』
思ったことをそのまま言う。別に、間違ったことは言っていない筈だ。大体、名探偵って何だ、名探偵って。
『まず、俺たちに依頼が来た。依頼内容とかを書いた紙と一緒にワスレナグサが同封されていた。・・・・・ここまでは知ってるよな?』
「聞いたばかりだから忘れないよ。」
兄貴じゃあるまいし、と云う言葉は飲み込んでおいた。口論の時間が惜しい。
『因みにワスレナグサは、親友が好きだった花だったので願懸けのつもりで入れたとの事だ。』
それだ。その言葉をしっかりと記憶しつつ、大して気にしていないような声を出す。
「親友?わかった。続けて。」
『大切なアルバムを探して欲しいと云う依頼だった。依頼人は背がそこそこ高く、痩せ型の男。容姿はどう考えても十人並みって感じだな。数年前に事故にあって以来、記憶力が落ちているらしい。暫く放っておくと親の顔さえよく分からなくなるそうだ。そんな体質だから、毎週日曜日にアルバムを見る事を習慣としていたようだ。だが8月18日の金曜日に空き巣に入られ、現金と父に貰った腕時計、それから例のアルバムが無くなっていたことに気が付いたらしい。そのアルバムは依頼人にとって最も大事な物だったらしく、記憶が悪くなるきっかけの事故で亡くなった親友との写真が入ったものだそうだ。一応警察も動いてはくれているらしいが、本人の体質上、長くアルバムが手元に無いのは不安らしい。』
いっぺんに話された事柄の内、必要な事とそうでない事を選り分ける。落ちた記憶力。日曜日にアルバムを見る。空き巣に入られた日。盗品。アルバムの内容。
一通り頭を整理したところで意見を聞くことにする。
「それで、兄貴はどう考えてる?」
『どうもこうも、お手上げだからお前に電話してるんだよ。俺個人の結論としては、やっぱり警察沙汰だろって感じだ。空き巣を探せってのは無謀だ。日時と場所と盗品以外に手がかりが一切ない。そこから心理検査・・・・なんて俺はできないしな。そいつの身体的特徴とかが解ればまだ方法はあるが、いくらなんでも、そう云う事が解っていたら依頼人が言っている筈だろう。』
兄貴の話を聞きながら、俺はある決意を固めていた。今度、兄貴には頭を使う本でも貸してやろう。
「兄貴は本気で空き巣がそんなモノを盗ったと思う?」
『普通に考えたら、無いだろ。色々考えたんだけどな、<本人に恨みがあったので、嫌がらせ>とか<アルバムを返して欲しければ金をよこせ、とか脅迫する>とか<単なる気まぐれ>とか。どれも、普通に考えたらデメリットがでかすぎるけどな。』
うん、常識的だ。別におかしなところは無い。そもそも前提が間違っていなければ、実に正しい意見だ。
「俺が言ってるのはそういう事じゃない。」
『それじゃ、どういう事だ?』
察しが悪い。俺はわざと電話越しでも分かるようなため息をついた。この兄と血が繋がってるのか、俺。仕方ないので説明してやることにした。
「兄貴も兄貴の相棒も、その依頼人とやらも・・・・・みんな決め付けすぎだ。」
『決め付け・・・・・?』
だから、と出た声は、我ながらかなり呆れているように聞こえた。俺の心理が大きく反映された結果といえよう。それはともかく、兄貴は具体的に教えなければ分からないようだ。めんどくさいが、このままでいるともっと面倒だ。
「<空き巣に入られた>、<アルバムがなくなっている>。どうしてそれだけで、<空き巣がアルバムを盗んだ>なんて決め付けるんだ?」
しばしの沈黙があった。恐らく、思考しているのだろう。
ややあって、声が聞こえた。
『空き巣とアルバム紛失は、無関係?』
「俺はそう思うよ。兄貴、依頼人の仕事は?」
これは謎解きの必要事項でもあり、俺の情報収集でもある。不自然に思われないか少し不安だったが、それは杞憂に終わった。
「中小企業の社員。」
『企業名は・・・・・まぁいいや。依頼人の名前と電話番号を教えて。電話番号言うのがめんどくさかったら住んでる町でもいいから。』
これは流石に言ってくれないかもしれないと思ったけれど、少しの沈黙の後で兄貴が依頼人の名前と住んでいる町の名前を呟いた。守秘義務とか無いのかよ、と思いつつ情報を探す。思わず小さく「よし。」と呟いてしまった。だが、気にするほどのことでもないだろう。
とりあえず情報は手に入れた。ついでに、謎も解けた。
「成程ね。多分これでいい筈だ。」
『何がだ。』
「ヒントはあげるよ。其処から先は自分でやりなよ?依頼されたのは兄貴達なんだから。」
『わかってる。』
何処か憮然としたような声を聞いて、思わず笑いたくなるのを堪えた。
「ヒント一。依頼人に、13日から18日までに休暇をとったかどうかを確認すること。」
『13日・・・・・日曜か。』
「そう。そしてヒント二。依頼人は日本人。」
兄貴が少しの間黙り込む。恐らく考えを整理しているのだろう。
『成程な・・・・・で、お前が確信してるって事は、本当はヒント一の方は知ってるんだな?』
「まぁね。でも、兄貴たちが知ってる筈が無いんだし、一応依頼人に聞いておかないと不自然だろう?記憶力が落ちているから気にしないかもしれないけど、念には念を入れた方がいいし。」
別にこれは嘘ではない。単なる付け足しともいえるけど。
『なるほどな。わかった、サンキュー。』
「どういたしまして。」
短く答えて通話を遮断する。これで少しは動ける。すっかり体温の移った携帯電話を握りなおし、舜へと電話をかけた。
続く。
電話の台詞は何でも屋の方と同じなので読み飛ばし可能です。
小説終わってから書いても意味がないけど。
では、今日はこれくらいで失礼します。
久々に行った学校は、図書室が使いにくくなっていました。
暫くは上履きを脱いで入らなきゃならないそうです。
しゃばけを返し、有栖川有栖さんの「46番目の密室」と京極夏彦さんの「巷説百物語」を借りました。
んで、今日ようやく「鉄鼠の檻」を読み始めました。
読んでも読んでもページがあるって嬉しいですね!
では、今日はとっとと小説に入ります。
『勿忘草の追想』
第二話
いつもの喫茶店の定位置に陣取り、軽食を頼んでから近況を報告する。とはいっても、<あの花は依頼の手紙に同封されていた>と云う事しか分かっていないわけだから、メインは朝食かもしれない。
「依頼人が何処の誰なのか、君でも分からない?」
「いくらなんでも情報が少なすぎる。消印でも分かればもう少し絞り込めたが、流石にそれは怪しまれる。情報を手に入れられなくなればさらに不便になるからね。」
俺もまだまだと云うことだ。
「もっと情報収集の力を上げないとな・・・・・。」
「聖、俺は今のままで十分だと思うよ。とりあえず、何か進展があったら、また電話してね。」
「わかっているよ。」
その後は、とりあえず適当に世間話をして過ごした。
兄貴から電話がかかってきたのは、夕飯でも作ろうと台所に立った頃だった。テーブルの上に放置した携帯電話をとれば、もしもし?とか言う間もなく兄貴の声が聞こえた。
「そんなわけで、名探偵、出動を要請する。」
『いきなりワケの分からないことを抜かさないでくれる?まず、順を追って説明してくれよ。』
思ったことをそのまま言う。別に、間違ったことは言っていない筈だ。大体、名探偵って何だ、名探偵って。
『まず、俺たちに依頼が来た。依頼内容とかを書いた紙と一緒にワスレナグサが同封されていた。・・・・・ここまでは知ってるよな?』
「聞いたばかりだから忘れないよ。」
兄貴じゃあるまいし、と云う言葉は飲み込んでおいた。口論の時間が惜しい。
『因みにワスレナグサは、親友が好きだった花だったので願懸けのつもりで入れたとの事だ。』
それだ。その言葉をしっかりと記憶しつつ、大して気にしていないような声を出す。
「親友?わかった。続けて。」
『大切なアルバムを探して欲しいと云う依頼だった。依頼人は背がそこそこ高く、痩せ型の男。容姿はどう考えても十人並みって感じだな。数年前に事故にあって以来、記憶力が落ちているらしい。暫く放っておくと親の顔さえよく分からなくなるそうだ。そんな体質だから、毎週日曜日にアルバムを見る事を習慣としていたようだ。だが8月18日の金曜日に空き巣に入られ、現金と父に貰った腕時計、それから例のアルバムが無くなっていたことに気が付いたらしい。そのアルバムは依頼人にとって最も大事な物だったらしく、記憶が悪くなるきっかけの事故で亡くなった親友との写真が入ったものだそうだ。一応警察も動いてはくれているらしいが、本人の体質上、長くアルバムが手元に無いのは不安らしい。』
いっぺんに話された事柄の内、必要な事とそうでない事を選り分ける。落ちた記憶力。日曜日にアルバムを見る。空き巣に入られた日。盗品。アルバムの内容。
一通り頭を整理したところで意見を聞くことにする。
「それで、兄貴はどう考えてる?」
『どうもこうも、お手上げだからお前に電話してるんだよ。俺個人の結論としては、やっぱり警察沙汰だろって感じだ。空き巣を探せってのは無謀だ。日時と場所と盗品以外に手がかりが一切ない。そこから心理検査・・・・なんて俺はできないしな。そいつの身体的特徴とかが解ればまだ方法はあるが、いくらなんでも、そう云う事が解っていたら依頼人が言っている筈だろう。』
兄貴の話を聞きながら、俺はある決意を固めていた。今度、兄貴には頭を使う本でも貸してやろう。
「兄貴は本気で空き巣がそんなモノを盗ったと思う?」
『普通に考えたら、無いだろ。色々考えたんだけどな、<本人に恨みがあったので、嫌がらせ>とか<アルバムを返して欲しければ金をよこせ、とか脅迫する>とか<単なる気まぐれ>とか。どれも、普通に考えたらデメリットがでかすぎるけどな。』
うん、常識的だ。別におかしなところは無い。そもそも前提が間違っていなければ、実に正しい意見だ。
「俺が言ってるのはそういう事じゃない。」
『それじゃ、どういう事だ?』
察しが悪い。俺はわざと電話越しでも分かるようなため息をついた。この兄と血が繋がってるのか、俺。仕方ないので説明してやることにした。
「兄貴も兄貴の相棒も、その依頼人とやらも・・・・・みんな決め付けすぎだ。」
『決め付け・・・・・?』
だから、と出た声は、我ながらかなり呆れているように聞こえた。俺の心理が大きく反映された結果といえよう。それはともかく、兄貴は具体的に教えなければ分からないようだ。めんどくさいが、このままでいるともっと面倒だ。
「<空き巣に入られた>、<アルバムがなくなっている>。どうしてそれだけで、<空き巣がアルバムを盗んだ>なんて決め付けるんだ?」
しばしの沈黙があった。恐らく、思考しているのだろう。
ややあって、声が聞こえた。
『空き巣とアルバム紛失は、無関係?』
「俺はそう思うよ。兄貴、依頼人の仕事は?」
これは謎解きの必要事項でもあり、俺の情報収集でもある。不自然に思われないか少し不安だったが、それは杞憂に終わった。
「中小企業の社員。」
『企業名は・・・・・まぁいいや。依頼人の名前と電話番号を教えて。電話番号言うのがめんどくさかったら住んでる町でもいいから。』
これは流石に言ってくれないかもしれないと思ったけれど、少しの沈黙の後で兄貴が依頼人の名前と住んでいる町の名前を呟いた。守秘義務とか無いのかよ、と思いつつ情報を探す。思わず小さく「よし。」と呟いてしまった。だが、気にするほどのことでもないだろう。
とりあえず情報は手に入れた。ついでに、謎も解けた。
「成程ね。多分これでいい筈だ。」
『何がだ。』
「ヒントはあげるよ。其処から先は自分でやりなよ?依頼されたのは兄貴達なんだから。」
『わかってる。』
何処か憮然としたような声を聞いて、思わず笑いたくなるのを堪えた。
「ヒント一。依頼人に、13日から18日までに休暇をとったかどうかを確認すること。」
『13日・・・・・日曜か。』
「そう。そしてヒント二。依頼人は日本人。」
兄貴が少しの間黙り込む。恐らく考えを整理しているのだろう。
『成程な・・・・・で、お前が確信してるって事は、本当はヒント一の方は知ってるんだな?』
「まぁね。でも、兄貴たちが知ってる筈が無いんだし、一応依頼人に聞いておかないと不自然だろう?記憶力が落ちているから気にしないかもしれないけど、念には念を入れた方がいいし。」
別にこれは嘘ではない。単なる付け足しともいえるけど。
『なるほどな。わかった、サンキュー。』
「どういたしまして。」
短く答えて通話を遮断する。これで少しは動ける。すっかり体温の移った携帯電話を握りなおし、舜へと電話をかけた。
続く。
電話の台詞は何でも屋の方と同じなので読み飛ばし可能です。
小説終わってから書いても意味がないけど。
では、今日はこれくらいで失礼します。
コメント