折角の休みだというのに、何故か『魔法使い』たちに呼び出された。
「何か用?用が無いならぶっ飛ばすぞ」
 折角の休みだから、と教師共がこぞって宿題を出してくれたおかげで、非常に不機嫌なのだ。多少口が悪いのは勘弁して欲しい。
「ちょっと、俺達だけじゃ対処しきれない事が起きて。宿題なら手伝うから」
「二人が対処できない事?」
 それはちょっとした緊急事態なんじゃないだろうか。二人の表情はいつもと変わらないが、雰囲気は違う。
「春夏秋冬君や水無月君にも応援を頼んだ。神山さんも協力してくれるって」
「探偵はともかく、後輩達を巻き込むなよ」
「二人とも宿題を教えるって事で手を打ってくれたよ。数学科のあの先生に当たってるから、二人とも結構苦労してたし」
「ああ、あいつの問題陰険だしな・・・・・・じゃなくて、平和的に釣ればいいってモンじゃないだろうが、ああ?」
「葵、落ち着いて」
 真理が肩に手を置いて、落ち着かせてくれる。ああ、いくらなんでも言葉が荒れすぎたか。
「どうしても、二人と刹那君の力が必要だったんだよ」
「あっそ・・・・・・」
「あと、兄貴にもこっそり手伝ってもらおうかと」
 兄貴?
「確か、『何でも屋』ってのをやってるんだっけ?」
「そう」
「・・・・・・お前らが依頼して大丈夫なのか?」
「俺たちが依頼するわけじゃないから。ちょっと利用させてもらうだけだよ。中継地点としてね」
 これ以上は聞いても恐らく理解できない。少なくとも、今の時点では。
「で、今回はちゃんと計画を予め知らせてくれるのか?それとも、いつも通りその時に指示を出すの?」
「基本的な計画は教えるよ。詳しい事はその時に。臨機応変に対応できるようにしたいし」
 特に異論は無いので頷いておく。二人がこういうのは、こうしなければならないからだろう。奴らは基本的に怪しいし不信感も無いとは言えないのだが、信用は出来る。
「とりあえず、あたしは何をすればいいんだ?今のところの予定でいいけど」
「そうだね、今のところ、力仕事と破壊活動と、ちょっとだけ脅迫」
 つまるところ、いつもと大体変わらないという事か。少しだけ空しくなる。
 真理は自分を指さし、二人の顔をじっと見つめた。
「ああ、真理君は、葵君と一緒にいてね。葵君が暴走しそうになったら止めてくれる?」
「分かった」
 素直な返事。真理も他の人間とコミュニケーションできるようなってきた。
「というわけで、早速刹那君を連れてきてくれる?多分、夙夜君が言ってもちょっと渋るだろうから」
 パシリかよ。そう思ったが、とりあえず口には出さないでおく。出さなくても伝わるだろうし。
「それで、手段は問わないわけ?」
「足をもぎ取ったりしないように気をつけてくれればそれでいいよ」
「蜘蛛のまま連れてこないといけないの?」
「人型でもいいよ」
「分かった」
「俺の家に集合で」
「了解」
 水無月君の携帯に電話をかけ、これから向かうと伝える。安堵したような声が聞こえた辺り、二人の予想は当たっていたらしい。



「ありがとうございます、和谷先輩」
「ありがとうございます」
 後輩二人は律儀に礼を言う。こういうところは可愛い。
「お、下ろしてくれ!」
 肩の上でもがかれ、少しイラつく。
「黙っとけ。へし折るぞ」
 何を、とは言わない。決めてないから。
 見た目十歳くらいの女の子に担がれる長身の男、というのはなかなかシュールかもしれない。そんな事をぼんやりと思いながら、黙々と歩く。人が少ない道を選んでいるだけ感謝していただきたいものだ。
 すたすたと歩いていると、不意に抵抗を感じた。振り返ると、糸のようなものが地面にくっついており、手で必死にそれを握る美青年の姿があった。ため息をついて、空いている方の手で糸を掴む。力任せに引くと、アスファルトが少しはがれた。
 青年を一度下ろし、しっかりと掴んでおく。
「ちょっとめんどくさいから、沈んでて」
 青年、刹那の返事を聞く前に腹に拳を叩き込む。手加減はしたから死んではいない、筈。
 ぐったりとした青年を肩に担ぎなおす。
「それにしても、蜘蛛の糸は頑丈だって本当なんだな」
「そうですね」
「先に地面が抉れるとはね。やっぱりただの蜘蛛じゃないっていうのも関係あるのかな?」
 哀れな使い魔を心配するものはいないらしい。かくいうあたしもあまり心配していないから、言う権利は無いかもしれないけど。


 真理に呼び鈴を鳴らしてもらう。程なくして、扉が開いた。
「お届けにあがりましたー」
「やぁ、早かったね」
「ちょっと沈んでるけど、問題ないだろ?」
「うん、起こせば済む事だし。あ、ごめんね春夏秋冬君」
「いえ、渋る刹那が悪いんで」
 無表情で淡々と言う。これでも一応、普段は優しい主人らしい。
「お茶淹れるよ。ちょっと待ってて」
「分かった」
 ソファに荷物を降ろし、空いているところに座る。
「とりあえず、ざっと説明するから聞いてくれる?」
 舜が突然そう切り出した。否という者はいなかった。


 大まかな説明を聞き、ため息をついた。
「そんな奴がいるのか・・・・・」
「そう。厄介な事にね」
 にこりと微笑む舜。穏やかなはずのそれが、妙に薄ら寒く思える。こいつらを本気で敵に回した以上、相手もただじゃすまないだろう。
「あぁそうだ葵君」
「ん?」
「聞いておきたい事があるんだけど、いい?」
 断る理由は特に無い。

「君は、多くの人間と、たった一人の人間を天秤にかけて、迷うことなくどちらかを選べる?」

 その質問に少し疑問を答えながら、あたしは正直に答えた。


続く。

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