(視点:リィン)
イルとアキラの兄を置いて、現場検証とやらに行く事になった。面白そうだ。
「そういえば、これはどうする?」
左のポケットから鍵を取り出す。皆一様に首を傾げた。
「持って行ったほうがいいんじゃないかな。もしかしたら何かに使うかもしれないし」
「そうだな」
頷いて、とりあえずレイトに鍵を渡しておく。ふと視線に気づいた。イルが少しきょとんとした顔で俺を眺めていた。間抜け面だと言ってやろうか。いや、めんどくさいからいいや。
「何だ?」
「ん、特に何も無いけど・・・・・・リィン、本当に行くの?」
「一応、遊戯らしいからな。少しは乗ってみるのも一興だろう」
「リィンはそういうの好きだよね」
呆れたように言う。失礼な奴だ。
「なんだかよく分からないけれど、リィン、頑張ってね」
「何をだ」
「何かを」
つまり深く考えてなどいなかったというわけか。ため息をついて、立ち上がる。
「さっさと現場検証とやらをやろう。制限時間があるんだろう?」
「そうだな」
イルに見送られながら、部屋へ向かった。
「やぁ、いらっしゃい」
死体(ニセモノ)の少し上に、スノウシェイドとか言う幽霊だか神だかが浮いていた。能天気な声に、レイトが拳を震わせた。そういえば知り合いと云う話だったか。
「其処で何してるんだ?」
「死体の状態について教えてあげようと思って。推理ゲームだから、死亡推定時刻とかは大事でしょう?この人形、精巧に作ってはいるけど、その辺までは面倒で・・・・・・いや、ちょっと時間が無くてね。それに専門家がいるわけでもないから、本物に近いようにしても分からないだろうし。でもこれくらいは教えないと難易度高すぎでしょう?」
「確かに否定はしないが、微妙に本音が隠れてないぞ」
レイトは露骨に嫌な顔をした。
「そっちの都合はいいよ。で、教えてくれるんだろう?あたしには刺殺だろうって事くらいしか分からないんだけど」
「うん、とりあえず、凶器はナイフ」
其処に落ちてるよ、と軽い声で言う。確かに落ちている。
「ナイフ、というには少し大きくないか?ダガーくらいはあると思うが。いや、其方の世界だと違うのか?」
「うーん、俺は詳しくは知らないんだよね。だからその辺流しておいて」
「で、死亡推定時刻は?」
「午前3時から5時」
「結構アバウトですねぇ」
「ヒント程度だもの。無いよりマシでしょう?」
「それもそうだ。で、刺されたのは何処です?一箇所ですか?」
「うん、一箇所だけ。急所を一撃。見れば分かると思うけど、正面から。背中に少し突き出たのは分かる?」
「ああ、少し服が破れているな」
死体(ニセモノ)をじっと見物。ハザードが死体(ニセモノ)のすぐ傍に座り込んだ。そして、軽くつつく。
「んー・・・・・・つよい力じゃないとできないよね」
「うん。ついでに、実際の犯行の時は人形じゃなくて本人だったからね」
「え?」
「こう、鉄板のベストみたいなのを中にずっと着込んでたの。それで、ナイフはこれじゃなくて、同じ型でこう、刃の部分が引っ込む奴でね。ただ、普通の玩具と違って、力を込めないと引っ込まない。人の身体の硬さとかを計算して、できるだけリアルに」
「妙なディティールに凝ってるな」
ウンザリした声でレイトが言う。諦めとか、他の色んなものを混ぜたような声だ。
「鍵があったのは、この辺だったね。冷人君、鍵貸して」
「ああ、そうだな」
「置いても意味が無いんじゃないか?」
問うと、マモルがしばらく考えてから答えた。
「現場を出来るだけ再現したいんだと思う」
「何故そんなことをするんだ?」
「うーん、何となくじゃないか?探偵小説とかでよくやってるような気がするし」
「探偵小説?」
「推理小説のほうが分かりやすいかな」
「ああ、それなら分かる」
「リィンそういうの詳しそうだけど、知らないの?」
「探偵、という概念が無いからな。事件を解決するのは神殿と役所の仕事だ」
まぁそうだよな、とマモルが言う。見た目に合わず、妙に冷めている感じがする。見た目どおり幼いハザードより好感が持てるが。
「そうそう。追記。とりあえず、悲鳴を上げたり抵抗する事もできたからね」
「それをした形跡は?」
「そこは事情聴取でお願いします」
「それもそうか」
「ねぇ、窓あけてもいい?」
ハザードが窓を指さしている。日はないが、何故わざわざ。誰もが疑問を持ったようで、視線が集中する。ハザードは困ったように首を傾げた。
「すごい血のにおいがする」
「そういえば、そうだな」
「あぁ、本物の血を使ってるからね」
「・・・・・・何処から集めた?」
「あはは、さぁね。とりあえず、正真正銘人間の血だよ」
「ねぇ、あけていい?だめ?」
「そんなに気になる?」
スノウがハザードに目線を合わせた。ハザードはこくりと頷く。そういえば、と思い至った。
「こいつは視力があまりよくないからか知らんが、聴力や嗅覚が少し他人より鋭いんだ。・・・・・イルがふらついてたのも、そのせいかもしれないな」
あいつは五感が鋭い。慣れない血のにおいにあてられたのかもしれない。単純に死体が苦手と云うのもあるだろうが。
「そっか。じゃ、あける?」
「一応、鍵がかかってるかどうかだけ確認してから」
「でも、それなら扉を開けたほうが早いのではないでしょうか?」
リュウスイがまともな意見をだす。ハザードは首を横に振った。
「ろうかで血のにおいしたら、イルがいやがるよ」
「ああ、それは面白いな。扉の方を開けるか」
「あう・・・・・・・!?」
「いや、リィン。それは流石に酷いんじゃないか?」
「あ。あの美人さんが倒れちゃったら相棒が介抱するのかな。ちょっと見てみたい」
「舜のお兄さん、それはなかなか魅力的な提案ですけど、そうなったら誰が昼食作るんです?」
「聖料理上手でしょ?」
「俺だって、時には家事から解放されたいんだよ」
「窓、鍵かかってるよ。とりあえず開けようか」
「うん」
マモルとハザードが既に窓際にいた。ついでにシンリも。
「あ、この窓コレしか開かないの?」
「うん、転落防止に」
「2階から落ちたって多少痛いくらいじゃないか?」
「それは葵君だけだよ。他の人だったら骨折るくらいすると思うけどね」
「帰ったら覚悟しておけ」
マモルは親指だけ立てた拳を下に向け、微かに殺気を含んだ目でアキラとシュンをにらみつけた。当の本人たちは、困ったねと笑っていたが。
居間に戻ると、二人は既に昼食の準備を始めていた。
「あれ?みんなどうしたの?」
「事情聴取です。今、手あいてます?」
「うん」
「まだ食材選びしかしてないしな」
随分と仲良くなったらしい。
「イルさんとアキラのお兄さん、ずっと起きてたんだよね」
「あと相棒もな」
「俺は3時に部屋に戻ったよ」
「1時間後には戻ってきただろ。ほとんど起きてたも同然だ」
「リィンも起きていたよ。本を読みたいからって」
「えっとそれじゃ、午前3時から5時の間に、何か物音とかしませんでした?」
「小さい音くらいなら色々聞こえてきたが」
「イルは、なにかきこえた?」
「話に夢中だったからあんまり。大きな音とかはしなかったと思うよ」
「マスターキーをもっていった人とかは?」
「いないよ。どうしても目に付くし」
「第一、ほんの少し前に配られた鍵を紛失する奴なんざ、いくらなんでもいないだろう」
「まぁ、正論だけど」
兄の言いように、弟が苦笑した。
「それじゃ、十分くらい席を外した人とかはいますか?さっき言った時間帯で」
「ああ、それはみんなあるよ」
そりゃそうだろう。
「俺はさっきも言ったけど、一時間部屋に戻ったから」
シュンの兄がのんびりと云う。
「俺は途中で服を着替えにいった。部屋の名前を忘れて、戻るのに時間がかかったな」
「リィンは何度か本を取りに行ったよね」
「イルは一度何かを取りに行ったな」
「うん、確か料理のレシピをまとめた紙束。探すのに時間かかったから、十分は経ったと思う」
「あ、イルねてないの?」
「ちょっと寝たよ」
「5分くらいな」
「それって眠ったうちに入らない気が・・・・・・」
「コイツはこのくらいで十分動ける」
便利な身体だ。
「・・・・・・・ということは、全員アリバイなし?」
「その時間帯にアリバイがあるほうが可笑しいと思うけどね」
「そりゃそうか」
「つまり、密室を解かないと犯人の特定は無理って事?」
シュンの兄が言う。弟の方が、小首を傾げた。
「ある程度なら可能だよ。それなりに腕力のある人間って条件があるから」
「あ、そうか」
「そういえば、指紋って決め手にならないのか?」
「それは今回無視だって。知らない人もいるから」
俺もそれを知らない。イルも首を傾げていた。ハザードははなから頭に入っていないのか、むしろ入れるつもりも無いのか、小さな虫を目で追っていた。
「ハザードくんは無理じゃない?」
「いや、これも一応ナイフを扱えるし、腕力は人並みかそれより上くらいだ。頭は人並み以下だが」
「葵君は余裕だよね。あ、でもそれだと、寧ろナイフが壊れなかったのがおかしいか」
「お前らは貧弱だから無理だよな。それもトリックとかでどうにかなるのかな」
「さぁ?仕掛けは特に見つからなかったけど」
「リィンは・・・・・・できそうだよな」
「できるだろうな」
「イルさんは?」
「普通にやったら無理だ」
学者たちにも腕相撲で惨敗したほどだ。あのナイフを振り回す事くらいは出来るだろうが、正確につけるほどじゃない。
「とりあえず、鍵のトリックを解くしかないわけか。定石だと扉の隙間から糸を使って、とかだと思うけど」
「隙間はあったのか?」
「床との間に1.5センチほど。ただ、何処に引っ掛けたかが問題かな。死体の近くではあったけど、死体に引っ掛けたとするには遠すぎる。釘とかを刺した後も無かったし」
「窓も鍵が閉まっていたしね」
「ああ、あれは外から弄るのは無理そうだな」
「推理大会なら他でやれ。これから飯を作るってのに、そんな血なまぐさい話するな」
「それもそうか」
とりあえず、ひとまず解散と云うことになった。いい加減飽きてきたし、本でも読むか。
『三日目』に続く。
*状況まとめ*
・ 死亡推定時刻は午前3時から午前5時
・ アリバイは誰にも無い
・ 急所を刃物で一突き、相当力があるか、何らかのトリックを使わないと無理
→実行可能程度に力のある人間(腕力だけでなく、突進などもありと考えた場合)
リィン・ハザード・葵・聖の兄・舜の兄・冷人・流水
・ マスターキーは使われていない
・ 死体の傍に鍵が落ちていた、近くに釘などを刺した形跡は無い
・ 扉と床の間には1.5センチの隙間がある
こんなところです。解決編は近い内にアップします。頑張ります。
イルとアキラの兄を置いて、現場検証とやらに行く事になった。面白そうだ。
「そういえば、これはどうする?」
左のポケットから鍵を取り出す。皆一様に首を傾げた。
「持って行ったほうがいいんじゃないかな。もしかしたら何かに使うかもしれないし」
「そうだな」
頷いて、とりあえずレイトに鍵を渡しておく。ふと視線に気づいた。イルが少しきょとんとした顔で俺を眺めていた。間抜け面だと言ってやろうか。いや、めんどくさいからいいや。
「何だ?」
「ん、特に何も無いけど・・・・・・リィン、本当に行くの?」
「一応、遊戯らしいからな。少しは乗ってみるのも一興だろう」
「リィンはそういうの好きだよね」
呆れたように言う。失礼な奴だ。
「なんだかよく分からないけれど、リィン、頑張ってね」
「何をだ」
「何かを」
つまり深く考えてなどいなかったというわけか。ため息をついて、立ち上がる。
「さっさと現場検証とやらをやろう。制限時間があるんだろう?」
「そうだな」
イルに見送られながら、部屋へ向かった。
「やぁ、いらっしゃい」
死体(ニセモノ)の少し上に、スノウシェイドとか言う幽霊だか神だかが浮いていた。能天気な声に、レイトが拳を震わせた。そういえば知り合いと云う話だったか。
「其処で何してるんだ?」
「死体の状態について教えてあげようと思って。推理ゲームだから、死亡推定時刻とかは大事でしょう?この人形、精巧に作ってはいるけど、その辺までは面倒で・・・・・・いや、ちょっと時間が無くてね。それに専門家がいるわけでもないから、本物に近いようにしても分からないだろうし。でもこれくらいは教えないと難易度高すぎでしょう?」
「確かに否定はしないが、微妙に本音が隠れてないぞ」
レイトは露骨に嫌な顔をした。
「そっちの都合はいいよ。で、教えてくれるんだろう?あたしには刺殺だろうって事くらいしか分からないんだけど」
「うん、とりあえず、凶器はナイフ」
其処に落ちてるよ、と軽い声で言う。確かに落ちている。
「ナイフ、というには少し大きくないか?ダガーくらいはあると思うが。いや、其方の世界だと違うのか?」
「うーん、俺は詳しくは知らないんだよね。だからその辺流しておいて」
「で、死亡推定時刻は?」
「午前3時から5時」
「結構アバウトですねぇ」
「ヒント程度だもの。無いよりマシでしょう?」
「それもそうだ。で、刺されたのは何処です?一箇所ですか?」
「うん、一箇所だけ。急所を一撃。見れば分かると思うけど、正面から。背中に少し突き出たのは分かる?」
「ああ、少し服が破れているな」
死体(ニセモノ)をじっと見物。ハザードが死体(ニセモノ)のすぐ傍に座り込んだ。そして、軽くつつく。
「んー・・・・・・つよい力じゃないとできないよね」
「うん。ついでに、実際の犯行の時は人形じゃなくて本人だったからね」
「え?」
「こう、鉄板のベストみたいなのを中にずっと着込んでたの。それで、ナイフはこれじゃなくて、同じ型でこう、刃の部分が引っ込む奴でね。ただ、普通の玩具と違って、力を込めないと引っ込まない。人の身体の硬さとかを計算して、できるだけリアルに」
「妙なディティールに凝ってるな」
ウンザリした声でレイトが言う。諦めとか、他の色んなものを混ぜたような声だ。
「鍵があったのは、この辺だったね。冷人君、鍵貸して」
「ああ、そうだな」
「置いても意味が無いんじゃないか?」
問うと、マモルがしばらく考えてから答えた。
「現場を出来るだけ再現したいんだと思う」
「何故そんなことをするんだ?」
「うーん、何となくじゃないか?探偵小説とかでよくやってるような気がするし」
「探偵小説?」
「推理小説のほうが分かりやすいかな」
「ああ、それなら分かる」
「リィンそういうの詳しそうだけど、知らないの?」
「探偵、という概念が無いからな。事件を解決するのは神殿と役所の仕事だ」
まぁそうだよな、とマモルが言う。見た目に合わず、妙に冷めている感じがする。見た目どおり幼いハザードより好感が持てるが。
「そうそう。追記。とりあえず、悲鳴を上げたり抵抗する事もできたからね」
「それをした形跡は?」
「そこは事情聴取でお願いします」
「それもそうか」
「ねぇ、窓あけてもいい?」
ハザードが窓を指さしている。日はないが、何故わざわざ。誰もが疑問を持ったようで、視線が集中する。ハザードは困ったように首を傾げた。
「すごい血のにおいがする」
「そういえば、そうだな」
「あぁ、本物の血を使ってるからね」
「・・・・・・何処から集めた?」
「あはは、さぁね。とりあえず、正真正銘人間の血だよ」
「ねぇ、あけていい?だめ?」
「そんなに気になる?」
スノウがハザードに目線を合わせた。ハザードはこくりと頷く。そういえば、と思い至った。
「こいつは視力があまりよくないからか知らんが、聴力や嗅覚が少し他人より鋭いんだ。・・・・・イルがふらついてたのも、そのせいかもしれないな」
あいつは五感が鋭い。慣れない血のにおいにあてられたのかもしれない。単純に死体が苦手と云うのもあるだろうが。
「そっか。じゃ、あける?」
「一応、鍵がかかってるかどうかだけ確認してから」
「でも、それなら扉を開けたほうが早いのではないでしょうか?」
リュウスイがまともな意見をだす。ハザードは首を横に振った。
「ろうかで血のにおいしたら、イルがいやがるよ」
「ああ、それは面白いな。扉の方を開けるか」
「あう・・・・・・・!?」
「いや、リィン。それは流石に酷いんじゃないか?」
「あ。あの美人さんが倒れちゃったら相棒が介抱するのかな。ちょっと見てみたい」
「舜のお兄さん、それはなかなか魅力的な提案ですけど、そうなったら誰が昼食作るんです?」
「聖料理上手でしょ?」
「俺だって、時には家事から解放されたいんだよ」
「窓、鍵かかってるよ。とりあえず開けようか」
「うん」
マモルとハザードが既に窓際にいた。ついでにシンリも。
「あ、この窓コレしか開かないの?」
「うん、転落防止に」
「2階から落ちたって多少痛いくらいじゃないか?」
「それは葵君だけだよ。他の人だったら骨折るくらいすると思うけどね」
「帰ったら覚悟しておけ」
マモルは親指だけ立てた拳を下に向け、微かに殺気を含んだ目でアキラとシュンをにらみつけた。当の本人たちは、困ったねと笑っていたが。
居間に戻ると、二人は既に昼食の準備を始めていた。
「あれ?みんなどうしたの?」
「事情聴取です。今、手あいてます?」
「うん」
「まだ食材選びしかしてないしな」
随分と仲良くなったらしい。
「イルさんとアキラのお兄さん、ずっと起きてたんだよね」
「あと相棒もな」
「俺は3時に部屋に戻ったよ」
「1時間後には戻ってきただろ。ほとんど起きてたも同然だ」
「リィンも起きていたよ。本を読みたいからって」
「えっとそれじゃ、午前3時から5時の間に、何か物音とかしませんでした?」
「小さい音くらいなら色々聞こえてきたが」
「イルは、なにかきこえた?」
「話に夢中だったからあんまり。大きな音とかはしなかったと思うよ」
「マスターキーをもっていった人とかは?」
「いないよ。どうしても目に付くし」
「第一、ほんの少し前に配られた鍵を紛失する奴なんざ、いくらなんでもいないだろう」
「まぁ、正論だけど」
兄の言いように、弟が苦笑した。
「それじゃ、十分くらい席を外した人とかはいますか?さっき言った時間帯で」
「ああ、それはみんなあるよ」
そりゃそうだろう。
「俺はさっきも言ったけど、一時間部屋に戻ったから」
シュンの兄がのんびりと云う。
「俺は途中で服を着替えにいった。部屋の名前を忘れて、戻るのに時間がかかったな」
「リィンは何度か本を取りに行ったよね」
「イルは一度何かを取りに行ったな」
「うん、確か料理のレシピをまとめた紙束。探すのに時間かかったから、十分は経ったと思う」
「あ、イルねてないの?」
「ちょっと寝たよ」
「5分くらいな」
「それって眠ったうちに入らない気が・・・・・・」
「コイツはこのくらいで十分動ける」
便利な身体だ。
「・・・・・・・ということは、全員アリバイなし?」
「その時間帯にアリバイがあるほうが可笑しいと思うけどね」
「そりゃそうか」
「つまり、密室を解かないと犯人の特定は無理って事?」
シュンの兄が言う。弟の方が、小首を傾げた。
「ある程度なら可能だよ。それなりに腕力のある人間って条件があるから」
「あ、そうか」
「そういえば、指紋って決め手にならないのか?」
「それは今回無視だって。知らない人もいるから」
俺もそれを知らない。イルも首を傾げていた。ハザードははなから頭に入っていないのか、むしろ入れるつもりも無いのか、小さな虫を目で追っていた。
「ハザードくんは無理じゃない?」
「いや、これも一応ナイフを扱えるし、腕力は人並みかそれより上くらいだ。頭は人並み以下だが」
「葵君は余裕だよね。あ、でもそれだと、寧ろナイフが壊れなかったのがおかしいか」
「お前らは貧弱だから無理だよな。それもトリックとかでどうにかなるのかな」
「さぁ?仕掛けは特に見つからなかったけど」
「リィンは・・・・・・できそうだよな」
「できるだろうな」
「イルさんは?」
「普通にやったら無理だ」
学者たちにも腕相撲で惨敗したほどだ。あのナイフを振り回す事くらいは出来るだろうが、正確につけるほどじゃない。
「とりあえず、鍵のトリックを解くしかないわけか。定石だと扉の隙間から糸を使って、とかだと思うけど」
「隙間はあったのか?」
「床との間に1.5センチほど。ただ、何処に引っ掛けたかが問題かな。死体の近くではあったけど、死体に引っ掛けたとするには遠すぎる。釘とかを刺した後も無かったし」
「窓も鍵が閉まっていたしね」
「ああ、あれは外から弄るのは無理そうだな」
「推理大会なら他でやれ。これから飯を作るってのに、そんな血なまぐさい話するな」
「それもそうか」
とりあえず、ひとまず解散と云うことになった。いい加減飽きてきたし、本でも読むか。
『三日目』に続く。
*状況まとめ*
・ 死亡推定時刻は午前3時から午前5時
・ アリバイは誰にも無い
・ 急所を刃物で一突き、相当力があるか、何らかのトリックを使わないと無理
→実行可能程度に力のある人間(腕力だけでなく、突進などもありと考えた場合)
リィン・ハザード・葵・聖の兄・舜の兄・冷人・流水
・ マスターキーは使われていない
・ 死体の傍に鍵が落ちていた、近くに釘などを刺した形跡は無い
・ 扉と床の間には1.5センチの隙間がある
こんなところです。解決編は近い内にアップします。頑張ります。
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