俺は夙夜のように使い魔をもっているわけでもなく、先輩達のように特殊な力があるわけじゃない。だからできる事は限られている。
「とりあえず葵君は脅迫、水無月君は説得をお願い」
そう言い渡されて、和谷先輩と霧島先輩と共に待機しているところだ。少し揉め事はあったけど、いつもの事だから気にするなと時雨先輩が言っていたので、気にしないように心がけておく。
「春夏秋冬、粘ってたね」
「ははは・・・・・・」
和谷先輩の言葉に苦笑するしかなかった。夙夜は俺達とは別行動で、それが不服なようで少しごねていた。あいつもそろそろ、俺以外の人間ともちゃんと関わった方がいいのだろうが、本人にその気がない。
恐らく、前の学校での事が尾を引いているのだろう。その時は俺とは学校が違ったし、事情はよく知らない。ただ、ほとんど表情を出す事がない夙夜が泣くほどの事があったのは確かだ。
頭を振って思考を切り替える。先輩達とそれなりに話したりできるようになっただけ、進歩している。それに結局、いつまでも今のままではいられないのだから。
「さて、そろそろ時間の筈だけど」
携帯電話を覗き込んで、和谷先輩が呟く。霧島先輩はその隣で黙ったまま宙を見つめていた。何気なく腕時計に目をやって、時刻を確認する。その時、着信音が鳴り響いた。和谷先輩の携帯だった。
「こっちは準備できてるけど・・・・・・・探偵の方は済んだ?・・・・・・そう、でもあっちはどうするんだ?・・・・・・・あぁなるほど。それじゃ五分後に」
通話を終わらせて、先輩がこちらに顔を向けた。
「というわけで、五分後に突入。作戦は、『思ったとおりにやってくれ』だと」
「それって作戦なんですか?」
「いつもの事だから。あいつらがああ言ったっていう事は、思ったとおりにやれば解決するって事だから安心するといいよ。そういう意味では、あいつらは信用できるから」
先輩達の信頼関係がいまいち分からない。とりあえず、言われたようにやるしかないのだろう。随分自由度の高い作戦だけど。
「さて、暴れるよ真理」
不敵に笑って、携帯を霧島先輩に手渡した。きっと憂さ晴らしも兼ねているんだろうな、というのは、表情を見ればよく分かった。
奇妙な感覚がした。ぐらりと一瞬視界が揺れて、世界が変わる。何度か経験しても未だに慣れない感覚。一瞬にして広がったのは少しばかり特殊な空間だというのは聞いていた。誰かの心が変な形で具現されているとかいう話だ。それ以上の事は言われなかったし、聞く気もなかった。
ふらふらと立ち上がって、先輩達に目を向けた。いつもと変わらない。和谷先輩は肩を軽く回した。
「さて、行くか。水無月、大丈夫か?」
「はい、平気です」
暗闇に目が慣れるのと同じように、この空間も少しいれば段々と空気には馴染める。変わる瞬間は辛いが、それさえ過ぎてしまえば後は楽だ。
一つ息をついて、周囲を眺める。ついさっきまで目立たない路地だったこの場所は、冷たいコンクリートらしきもので出来た古ぼけた部屋に変わっていた。廃墟の一室といった感じだ。
「さて、この隣にいるらしいけど」
「隣って・・・・・・」
よく見ると、この部屋は窓らしきところはあるが出入り口らしきところはない。どうするつもりなんだろう。
「確か、窓の丁度反対側って言ってたな」
小さく呟くと、和谷先輩は窓の反対側の壁を軽くこんこんと叩いた。こくりと一つ頷く。まさか。
「二人とも、下がってて」
えぇ?あのまさか?疑問を飲み込みつつ下がる。身の危険を感じてだ。
先輩は拳を握り、すっと腰を落とした。
―――やる気だ。
そう思った次の瞬間には、形容しがたい音と共に壁が破壊されていた。
「やっぱり脆いね、この壁」
床に散らばった破片を見る限り、そうは思えない。
「そういえば、これ壊してよかったのかな」
「え?」
いやそんな今更言われても。
「でも、いいんだよな多分。思うままに行動しろって話だったし」
「は、はぁ・・・・・・でも、壊すと何かあるんですか?」
「心を変な形で具現化したものってのは、知ってる?」
「はい」
「で、この空間は一応その人物の精神ともまだ繋がりがあって」
「ああ・・・・・・・」
なんとなく分かった。
「でも、このくらいなら大丈夫、多分」
多分ってそんな。突っ込むべきか否か迷っている間に、先輩はずかずかと乗り込んだ。霧島先輩は黙ってそれについていく。俺もとりあえず後を追った。
そこにいたのは、30歳くらいの男だった。やつれていて、目が何となく怖い。
「なるほど、アンタをぶっ飛ばせばいいのか」
和谷先輩は、もっと怖かった。男は恐々と先輩を見上げた。
「な、なんだ、君は・・・・・・」
どうしてそんなに怯えているのか疑問に思って、すぐに解決した。そういえば和谷先輩は壁を壊して突破したんだった。
「何故君やあの少年達は邪魔をするんだ・・・・・・!」
「アンタのやろうとしてる事があたし達にとって迷惑だから」
迷いがない。威風堂々とした態度は、男には恐怖をあおるものだったらしい。
「アンタはあたしと、あいつらを敵に回した。誰かと敵対する覚悟もなくそんな事をしたわけじゃないだろう?」
「・・・・・・所詮お前達には私の気持ちなんか分からないだろうな」
「多くの人間と引き換えにしてでも、一人の人間を選ぼうというその気持ちは分からなくもないけどね」
和谷先輩が今どんな顔をしているのか、俺には分からない。男は怪訝そうな顔をした。
「でも、分からなくもないからこそ、あたしはアンタを許さない」
「何故・・・・・」
「何故?は、愚問だな」
吐き捨てるように言った。ぞく、と背筋が凍った。怖い。
「あたしの大切な一人を犠牲にしようとしている人間を、どうやって許せっていうんだ?」
男は黙り込む。というか、声も出ないほどなんだろう。
「あたしもアンタも大切なものの為なら多数を切り捨てられる。でも、あたしの大事なものと、アンタの大事なものは違う。敵対理由はそれだけで十分だ」
ぴしり、と音がした。何の音だろう。
「そ・・・・・・それでも、私は、負けるわけには・・・・・・・」
もう負けてる気がする。その姿を見て、ふと思った。
少しだけ歩いて、先輩の少し後ろ、というところまで進む。
「貴方の大切なものがどんな人かは知らないけど」
それどころか、この人が何の為に何をしたのかさえもよくわかっていない。それでも、思った事はあった。
「貴方は多分、その人を救えても・・・・・・最後にはその人を滅ぼすと思う」
男はぽかんと口をあけた。ぴしり、とまた音がした。罅が入る音に似ている気がした。
「多分、貴方も分かっているんでしょう?」
「そんな・・・・・・そんなはずはない・・・・・・」
「でも、それならどうしてそんなに不安そうな顔をしてるんですか?貴方は迷ってるんでしょう?自分のしている事が、本当にその人を幸せにできるとは、思っていないんじゃないんですか?」
ずっとこの人は不安がっていた。恐怖とは違う。何かに対する不安。それは多分、やる事が上手くいくか分からないという不安じゃなくて、『やる事』それ自体に対する、不安。
男は今度こそ言葉を失った。その途端、何かが割れる音がした。
「崩れる」
霧島先輩が呟いた。その言葉が数時間ぶりの発言だと気付く前に、視界が変わった。
「君は、多くの人間と、たった一人の人間を天秤にかけて、迷うことなくどちらかを選べる?」
氷雨先輩が、唐突に和谷先輩に尋ねた。和谷先輩は一瞬きょとんとして、すぐに答えた。
「あたしは、できるなら両方選びたい」
先輩は、そう言い切った。
「本当に仕方がないなら真理を選ぶけど、できればそんな選択しないで済むように動くよ」
「何故?」
氷雨先輩はにこにこと笑う。和谷先輩は何を言うのか、と呆れたような顔で氷雨先輩を睨んだ。
「真理の他にも大事なものはあるからね。それに、他の沢山の人がいて、沢山のものがあるから、あたしも真理も生きていられるんだから」
そう言って和谷先輩は霧島先輩の頭を撫でた。氷雨先輩は楽しそうに笑った。
「そうだね。―――人は繋がってるから」
目を開くと、其処は公園だった。時雨先輩と氷雨先輩がにこにこと笑って手を振っていた。夙夜は大きな蜘蛛の隣で眠そうに目を擦っている。俺に気が付くと、覚束ない足取りで駆け寄ってきた。
「・・・・・・ねむい」
「第一声がそれかよ。・・・・・・そんな顔するな。分かった、分かったから」
屈むと、背にのしかかってきた。いくら夙夜が小柄で華奢とはいえ同い年の男だ。ちょっと重い。そのままおぶってやると、すぐにうとうとし始めた。気分は三歳児の母親だ。
「詳しい話は明日教えてください。これを家まで運ばないといけないんで」
「お母さんみたいだね」
「言わないで下さい・・・・・・」
高校生男子がお母さんってちょっと嫌だ。ずり落ちかけた夙夜を背負いなおした。人型になった刹那が駆け寄ってきたが、同行は拒否した。
「せめて服を着てからにしてくれ」
全裸の男が歩いていたら色々問題だろう。というか、和谷先輩もいるんだからその辺も考えるべきだと思う。刹那は慌てて服を身に着けた。ちゃんと夙夜に持って行くように言っておいて正解だった。
「それじゃ、先輩。また明日。・・・・・・ほら夙夜、挨拶だけでもしとけ」
「んー・・・・・・せんぱい、あした・・・・・・」
眠そうに言って、またすぐ動かなくなった。相当眠かったのかこいつ。怯える刹那を宥めつつ、家へと向かった。
結局何がなんなのか、よく分からないまま。
―了―
「了」とか書いておきながら、後日談に続きます。
「とりあえず葵君は脅迫、水無月君は説得をお願い」
そう言い渡されて、和谷先輩と霧島先輩と共に待機しているところだ。少し揉め事はあったけど、いつもの事だから気にするなと時雨先輩が言っていたので、気にしないように心がけておく。
「春夏秋冬、粘ってたね」
「ははは・・・・・・」
和谷先輩の言葉に苦笑するしかなかった。夙夜は俺達とは別行動で、それが不服なようで少しごねていた。あいつもそろそろ、俺以外の人間ともちゃんと関わった方がいいのだろうが、本人にその気がない。
恐らく、前の学校での事が尾を引いているのだろう。その時は俺とは学校が違ったし、事情はよく知らない。ただ、ほとんど表情を出す事がない夙夜が泣くほどの事があったのは確かだ。
頭を振って思考を切り替える。先輩達とそれなりに話したりできるようになっただけ、進歩している。それに結局、いつまでも今のままではいられないのだから。
「さて、そろそろ時間の筈だけど」
携帯電話を覗き込んで、和谷先輩が呟く。霧島先輩はその隣で黙ったまま宙を見つめていた。何気なく腕時計に目をやって、時刻を確認する。その時、着信音が鳴り響いた。和谷先輩の携帯だった。
「こっちは準備できてるけど・・・・・・・探偵の方は済んだ?・・・・・・そう、でもあっちはどうするんだ?・・・・・・・あぁなるほど。それじゃ五分後に」
通話を終わらせて、先輩がこちらに顔を向けた。
「というわけで、五分後に突入。作戦は、『思ったとおりにやってくれ』だと」
「それって作戦なんですか?」
「いつもの事だから。あいつらがああ言ったっていう事は、思ったとおりにやれば解決するって事だから安心するといいよ。そういう意味では、あいつらは信用できるから」
先輩達の信頼関係がいまいち分からない。とりあえず、言われたようにやるしかないのだろう。随分自由度の高い作戦だけど。
「さて、暴れるよ真理」
不敵に笑って、携帯を霧島先輩に手渡した。きっと憂さ晴らしも兼ねているんだろうな、というのは、表情を見ればよく分かった。
奇妙な感覚がした。ぐらりと一瞬視界が揺れて、世界が変わる。何度か経験しても未だに慣れない感覚。一瞬にして広がったのは少しばかり特殊な空間だというのは聞いていた。誰かの心が変な形で具現されているとかいう話だ。それ以上の事は言われなかったし、聞く気もなかった。
ふらふらと立ち上がって、先輩達に目を向けた。いつもと変わらない。和谷先輩は肩を軽く回した。
「さて、行くか。水無月、大丈夫か?」
「はい、平気です」
暗闇に目が慣れるのと同じように、この空間も少しいれば段々と空気には馴染める。変わる瞬間は辛いが、それさえ過ぎてしまえば後は楽だ。
一つ息をついて、周囲を眺める。ついさっきまで目立たない路地だったこの場所は、冷たいコンクリートらしきもので出来た古ぼけた部屋に変わっていた。廃墟の一室といった感じだ。
「さて、この隣にいるらしいけど」
「隣って・・・・・・」
よく見ると、この部屋は窓らしきところはあるが出入り口らしきところはない。どうするつもりなんだろう。
「確か、窓の丁度反対側って言ってたな」
小さく呟くと、和谷先輩は窓の反対側の壁を軽くこんこんと叩いた。こくりと一つ頷く。まさか。
「二人とも、下がってて」
えぇ?あのまさか?疑問を飲み込みつつ下がる。身の危険を感じてだ。
先輩は拳を握り、すっと腰を落とした。
―――やる気だ。
そう思った次の瞬間には、形容しがたい音と共に壁が破壊されていた。
「やっぱり脆いね、この壁」
床に散らばった破片を見る限り、そうは思えない。
「そういえば、これ壊してよかったのかな」
「え?」
いやそんな今更言われても。
「でも、いいんだよな多分。思うままに行動しろって話だったし」
「は、はぁ・・・・・・でも、壊すと何かあるんですか?」
「心を変な形で具現化したものってのは、知ってる?」
「はい」
「で、この空間は一応その人物の精神ともまだ繋がりがあって」
「ああ・・・・・・・」
なんとなく分かった。
「でも、このくらいなら大丈夫、多分」
多分ってそんな。突っ込むべきか否か迷っている間に、先輩はずかずかと乗り込んだ。霧島先輩は黙ってそれについていく。俺もとりあえず後を追った。
そこにいたのは、30歳くらいの男だった。やつれていて、目が何となく怖い。
「なるほど、アンタをぶっ飛ばせばいいのか」
和谷先輩は、もっと怖かった。男は恐々と先輩を見上げた。
「な、なんだ、君は・・・・・・」
どうしてそんなに怯えているのか疑問に思って、すぐに解決した。そういえば和谷先輩は壁を壊して突破したんだった。
「何故君やあの少年達は邪魔をするんだ・・・・・・!」
「アンタのやろうとしてる事があたし達にとって迷惑だから」
迷いがない。威風堂々とした態度は、男には恐怖をあおるものだったらしい。
「アンタはあたしと、あいつらを敵に回した。誰かと敵対する覚悟もなくそんな事をしたわけじゃないだろう?」
「・・・・・・所詮お前達には私の気持ちなんか分からないだろうな」
「多くの人間と引き換えにしてでも、一人の人間を選ぼうというその気持ちは分からなくもないけどね」
和谷先輩が今どんな顔をしているのか、俺には分からない。男は怪訝そうな顔をした。
「でも、分からなくもないからこそ、あたしはアンタを許さない」
「何故・・・・・」
「何故?は、愚問だな」
吐き捨てるように言った。ぞく、と背筋が凍った。怖い。
「あたしの大切な一人を犠牲にしようとしている人間を、どうやって許せっていうんだ?」
男は黙り込む。というか、声も出ないほどなんだろう。
「あたしもアンタも大切なものの為なら多数を切り捨てられる。でも、あたしの大事なものと、アンタの大事なものは違う。敵対理由はそれだけで十分だ」
ぴしり、と音がした。何の音だろう。
「そ・・・・・・それでも、私は、負けるわけには・・・・・・・」
もう負けてる気がする。その姿を見て、ふと思った。
少しだけ歩いて、先輩の少し後ろ、というところまで進む。
「貴方の大切なものがどんな人かは知らないけど」
それどころか、この人が何の為に何をしたのかさえもよくわかっていない。それでも、思った事はあった。
「貴方は多分、その人を救えても・・・・・・最後にはその人を滅ぼすと思う」
男はぽかんと口をあけた。ぴしり、とまた音がした。罅が入る音に似ている気がした。
「多分、貴方も分かっているんでしょう?」
「そんな・・・・・・そんなはずはない・・・・・・」
「でも、それならどうしてそんなに不安そうな顔をしてるんですか?貴方は迷ってるんでしょう?自分のしている事が、本当にその人を幸せにできるとは、思っていないんじゃないんですか?」
ずっとこの人は不安がっていた。恐怖とは違う。何かに対する不安。それは多分、やる事が上手くいくか分からないという不安じゃなくて、『やる事』それ自体に対する、不安。
男は今度こそ言葉を失った。その途端、何かが割れる音がした。
「崩れる」
霧島先輩が呟いた。その言葉が数時間ぶりの発言だと気付く前に、視界が変わった。
「君は、多くの人間と、たった一人の人間を天秤にかけて、迷うことなくどちらかを選べる?」
氷雨先輩が、唐突に和谷先輩に尋ねた。和谷先輩は一瞬きょとんとして、すぐに答えた。
「あたしは、できるなら両方選びたい」
先輩は、そう言い切った。
「本当に仕方がないなら真理を選ぶけど、できればそんな選択しないで済むように動くよ」
「何故?」
氷雨先輩はにこにこと笑う。和谷先輩は何を言うのか、と呆れたような顔で氷雨先輩を睨んだ。
「真理の他にも大事なものはあるからね。それに、他の沢山の人がいて、沢山のものがあるから、あたしも真理も生きていられるんだから」
そう言って和谷先輩は霧島先輩の頭を撫でた。氷雨先輩は楽しそうに笑った。
「そうだね。―――人は繋がってるから」
目を開くと、其処は公園だった。時雨先輩と氷雨先輩がにこにこと笑って手を振っていた。夙夜は大きな蜘蛛の隣で眠そうに目を擦っている。俺に気が付くと、覚束ない足取りで駆け寄ってきた。
「・・・・・・ねむい」
「第一声がそれかよ。・・・・・・そんな顔するな。分かった、分かったから」
屈むと、背にのしかかってきた。いくら夙夜が小柄で華奢とはいえ同い年の男だ。ちょっと重い。そのままおぶってやると、すぐにうとうとし始めた。気分は三歳児の母親だ。
「詳しい話は明日教えてください。これを家まで運ばないといけないんで」
「お母さんみたいだね」
「言わないで下さい・・・・・・」
高校生男子がお母さんってちょっと嫌だ。ずり落ちかけた夙夜を背負いなおした。人型になった刹那が駆け寄ってきたが、同行は拒否した。
「せめて服を着てからにしてくれ」
全裸の男が歩いていたら色々問題だろう。というか、和谷先輩もいるんだからその辺も考えるべきだと思う。刹那は慌てて服を身に着けた。ちゃんと夙夜に持って行くように言っておいて正解だった。
「それじゃ、先輩。また明日。・・・・・・ほら夙夜、挨拶だけでもしとけ」
「んー・・・・・・せんぱい、あした・・・・・・」
眠そうに言って、またすぐ動かなくなった。相当眠かったのかこいつ。怯える刹那を宥めつつ、家へと向かった。
結局何がなんなのか、よく分からないまま。
―了―
「了」とか書いておきながら、後日談に続きます。
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