?魔法使いたち
「葵君は、敵に回したくないな」
一応友人である少年の突然の発言に、当の本人だけがパンを齧りながら首を傾げた。幼い容姿に高い位置で二つに括った髪は少女を少女らしく見せる為に貢献しているが、どこか粗野な齧り方がそれらの努力を帳消しにしている。そもそも、幼さで誤魔化せているが、顔立ちはよく見れば可愛らしいというより、精悍なのだ。迷いの無い表情が、それを後押ししてしまっているのかもしれない。
「あたしだって、聖や舜を敵に回したいとは思わないな」
ねえ、と自らの幼馴染に同意を求める。常に無表情な幼馴染はやはり無表情に黙ったまま首肯し、彼女の求める答えを示した。
「だって、直接勝負じゃまず勝ち目が無いしね」
「お前らひょろいしな」
「ひょろいって、酷いな」
あまりの言いように二人が同時に苦笑する。それでも否定しないのは、結局何を言ったところで彼女に腕相撲で惨敗し、重い荷物を持ってもらっているという事実が揺るがないからだ。
「ぎりぎり平均、だとは思うんだけどね」
「そうか、ということは現代の高校生ってひょろいのか」
妙な納得をした友人に、それでも二人は顔を合わせて笑う。ただ一人、彼女の幼馴染はことりと小首を傾げ、白い指で己を指し示した。
「ひょろい?」
「真理はいいの。あたしが守るから。それに、真理はあたしがどうしたってできない事をできるでしょ。それは、聖や舜も同じだけどさ」
「ま、適材適所ってやつだね」
そりゃそうだ、と笑って、少女はパンの包みを握りつぶし、適当に鞄の中に突っ込んだ。
「さあ、補給終了。で、どいつぶっ潰せばいいんだ?」
段々破壊的になっていくねと現代の魔法使いが笑い、古代の魔法使いはその言葉に肯定を示すように大笑いして、少女はそれに憮然としながら、それでも幼馴染がほんの少しだけ微笑を零したのを見て目を細め、笑った。
こんな青春も悪くはないと呟いたのは、果たして誰だったか。
終わり。
?懺悔
リィンはため息をついた。頭上にはその瞳よりも弱い青が広がっており、気温は過ごしやすいもので、おまけに爽やかな風まで吹いているという、文句をつける必要性の見当たらない快適さだ。それでも彼がため息をついているのは、間接的にはその陽気さが原因の四分の一ほどを占めている。
丸くなって眠る一応の友人を前に、リィンは呆れるしかなかった。無造作に散らばる銀の髪を眺めて、これでよく髪が痛まないなとどうでもいい事に思考を飛ばす。現実逃避をしていても仕方がないと眠りこける友人の肩をつま先で軽く蹴った。だが起きる気配はない。
この陽気にこの場所では仕方ないかもしれないと、リィンはまたため息をついた。遠くの喧騒でさえ、眠るには丁度いいのかもしれない。静か過ぎると眠れないと、どこかの誰かが言っていたような気もしてくる。喧騒の中によく知った高い声が混じっているのを聞き取り、微かに眉を顰める。
騒いでいる連中の話によれば、別に仕事があるわけではないのだという。一応、友人は仕事は手を抜きながらもこなしていく方だという事をリィンは熟知している。ただ、見つからないから探しているという、ただそれだけの事だった。それがまるで母を捜す幼子を連想させて、小さく歪んだ笑みを浮かべた。
しかし、人間とは気持ちよさそうに眠っている人間を見ていると眠くなってくるものであり、それは人類とカウントする事を知人に躊躇われた事のあるリィンでも同じ事だった。
そもそも、煩いから仕方なく探しに出てきてやっただけだ、とリィンは思考を友人を起こす方向から軌道修正し始める。見つけて知らせろと煩く言われて、それはもう半分達成している。自分にしては快挙であり、半分も達成しているならば別にもう半分までこなしてやる必要はないだろう、と強引な理屈を取り付ける。
友人の近くに寝転がり、空を見上げながらリィンは考える。読みたい本があったが、それは夜にでも読もう、と彼にとっての最優先事項のみを結論付けて、目を閉ざした。
二人分の寝息はどこか遠い喧騒に消される事無く、そこに在り続けた。
おわり。
三人称が苦手なので、少し練習に。
「葵君は、敵に回したくないな」
一応友人である少年の突然の発言に、当の本人だけがパンを齧りながら首を傾げた。幼い容姿に高い位置で二つに括った髪は少女を少女らしく見せる為に貢献しているが、どこか粗野な齧り方がそれらの努力を帳消しにしている。そもそも、幼さで誤魔化せているが、顔立ちはよく見れば可愛らしいというより、精悍なのだ。迷いの無い表情が、それを後押ししてしまっているのかもしれない。
「あたしだって、聖や舜を敵に回したいとは思わないな」
ねえ、と自らの幼馴染に同意を求める。常に無表情な幼馴染はやはり無表情に黙ったまま首肯し、彼女の求める答えを示した。
「だって、直接勝負じゃまず勝ち目が無いしね」
「お前らひょろいしな」
「ひょろいって、酷いな」
あまりの言いように二人が同時に苦笑する。それでも否定しないのは、結局何を言ったところで彼女に腕相撲で惨敗し、重い荷物を持ってもらっているという事実が揺るがないからだ。
「ぎりぎり平均、だとは思うんだけどね」
「そうか、ということは現代の高校生ってひょろいのか」
妙な納得をした友人に、それでも二人は顔を合わせて笑う。ただ一人、彼女の幼馴染はことりと小首を傾げ、白い指で己を指し示した。
「ひょろい?」
「真理はいいの。あたしが守るから。それに、真理はあたしがどうしたってできない事をできるでしょ。それは、聖や舜も同じだけどさ」
「ま、適材適所ってやつだね」
そりゃそうだ、と笑って、少女はパンの包みを握りつぶし、適当に鞄の中に突っ込んだ。
「さあ、補給終了。で、どいつぶっ潰せばいいんだ?」
段々破壊的になっていくねと現代の魔法使いが笑い、古代の魔法使いはその言葉に肯定を示すように大笑いして、少女はそれに憮然としながら、それでも幼馴染がほんの少しだけ微笑を零したのを見て目を細め、笑った。
こんな青春も悪くはないと呟いたのは、果たして誰だったか。
終わり。
?懺悔
リィンはため息をついた。頭上にはその瞳よりも弱い青が広がっており、気温は過ごしやすいもので、おまけに爽やかな風まで吹いているという、文句をつける必要性の見当たらない快適さだ。それでも彼がため息をついているのは、間接的にはその陽気さが原因の四分の一ほどを占めている。
丸くなって眠る一応の友人を前に、リィンは呆れるしかなかった。無造作に散らばる銀の髪を眺めて、これでよく髪が痛まないなとどうでもいい事に思考を飛ばす。現実逃避をしていても仕方がないと眠りこける友人の肩をつま先で軽く蹴った。だが起きる気配はない。
この陽気にこの場所では仕方ないかもしれないと、リィンはまたため息をついた。遠くの喧騒でさえ、眠るには丁度いいのかもしれない。静か過ぎると眠れないと、どこかの誰かが言っていたような気もしてくる。喧騒の中によく知った高い声が混じっているのを聞き取り、微かに眉を顰める。
騒いでいる連中の話によれば、別に仕事があるわけではないのだという。一応、友人は仕事は手を抜きながらもこなしていく方だという事をリィンは熟知している。ただ、見つからないから探しているという、ただそれだけの事だった。それがまるで母を捜す幼子を連想させて、小さく歪んだ笑みを浮かべた。
しかし、人間とは気持ちよさそうに眠っている人間を見ていると眠くなってくるものであり、それは人類とカウントする事を知人に躊躇われた事のあるリィンでも同じ事だった。
そもそも、煩いから仕方なく探しに出てきてやっただけだ、とリィンは思考を友人を起こす方向から軌道修正し始める。見つけて知らせろと煩く言われて、それはもう半分達成している。自分にしては快挙であり、半分も達成しているならば別にもう半分までこなしてやる必要はないだろう、と強引な理屈を取り付ける。
友人の近くに寝転がり、空を見上げながらリィンは考える。読みたい本があったが、それは夜にでも読もう、と彼にとっての最優先事項のみを結論付けて、目を閉ざした。
二人分の寝息はどこか遠い喧騒に消される事無く、そこに在り続けた。
おわり。
三人称が苦手なので、少し練習に。
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