イルに本を借りようと私室に行くと、イルは「丁度良かった」と笑った。
「リィン、久々に遺跡探索に行かない?」
「どこの遺跡だ?」
「ずっと昔の神殿長が神殿とは別に建物を創ったんだって。確か……療養所みたいな所だって話だけど。その時代の神殿長はかなり身体が弱い人だったみたい」
「お前に言われるほどなのか?」
尋ねるとイルは首を傾げた。
「俺は腕力とかはないけど、体はそこまで弱くない……と思うよ? たまに熱が出るけど」
「補正がかかってそれだろう? 充分弱いと思うが」
「あー……そういえば、神殿長になる前は結構よく熱とか出してたっけ。でも、その時代の神殿長はそれでも身体が弱かったんだから、相当だと思うよ」
それもそうか。或いは、こいつは無駄に『力』の有り余っている『神殿長』だから、他の神殿長と比べるのが間違っているのかもしれない。
「で、場所は?」
「この、山の麓。反対側にも探検できそうなところがあるんだけど、こっちは元盗賊のアジトの洞窟って話で、あんまり面白そうじゃないんだ」
「昔の神殿長の療養所とやらは面白いのか?」
「それがさ、その神殿長、結構謎が多い人なんだ。お墓がどこにあるのか見つかってないし、スノウさん達に聞いても魂の行方がわからないんだって」
それは、確かに面白そうではある。
「それで、療養中に書いた日記がその療養所に残ってるかもしれないんだ」
「日記か……いつも思うんだが、神殿長は日記をつけるのが義務なのか? それとも単に全員の趣味が一致しているだけか?」
まさか、日記を付ける習慣のある者が神殿長に選ばれる、なんて馬鹿げた事はないだろう。いくらこの世界が馬鹿げているとはいっても。
「多分、毎日退屈だからじゃない?」
「……日記が退屈しのぎになるか? そもそも、退屈な事しかないなら日記だって退屈なものになるだろう」
「そうじゃなくてさ。『神殿長ってそんなにいいものじゃないんだよ』って訴える為に書く、みたいな」
「……お前の場合はそうなのか?」
「まあね。でも他の人のを読んでても、結構悩みとか書いてあるよ。中には、最初は凄く喜んで神殿長をやっていたけど、段々月日が経って晩年になると毎日同じ三行の文章を残すだけになる人もいるし」
「それは読みたいところだな」
「最初から最後まで読もうと思うと、結構時間かかるよ」
それは承知している。何せ、数百年生きるとまで言われている『神殿長』の日記だ。さぞ読み応えがあるだろう。それに、一応は『一個人の』日記だ。読める者はごく限られている。神殿などという面倒な機関に所属しているのだから、それくらいのメリットがなければやっていけない。まあ、神殿の一員としてちゃんとやっているかと言われれば、答えは否であるわけだが。
「だが、何故急にその遺跡が気になったんだ?」
「んー……なんか、夢に出てきたんだよね」
「夢?」
「そう。こっちの、盗賊がいたっていう洞窟には三日前に行った事があるんだけど、その時から変な夢を見るんだよ。最初は山の上にある町にいて、『ああ、洞窟に行ったからその夢かな』って思ったんだけど、洞窟があった方とは反対の方に降りていったんだよ。そこで目が覚めて。次はその続きで山道を降りていて、白い建物が見えたところまで。で、今日起きる前に見た夢が、その建物に入る夢だったんだ」
「……なるほどな」
夢なんてものは、普通は大して当てになるようなものではない。だがこいつの場合は、少しばかり事情が違う。ただの夢、という事もあるが、こういう不自然な夢を見る場合は恐らく何かあるのだろう。
「……仕方ねえな。行くか」
「やった。あ、ハザードはどうする? 調査が長引くかもしれないけど」
「置いていく」
「……予想通りといえばそうだけど……まあ、ハザードにはちょっと合わないかもしれないし、やめた方がいいか。俺とリィンが調べ物してる間、じっとしてても退屈だろうし」
かといって、調査を手伝えるほど知識があるわけでもない。療養所がどれくらいの規模なのかは知らないが、広さによってはいるだけ邪魔だろう。いや、広さに関係なくいるだけ邪魔なのだが。
とりあえず、退屈しのぎはできそうだ。
荷物の確認をして、一息ついた。今日はハザードも連れての仕事になる。仕事といっても、昔盗賊のアジトとして使われていた洞窟の探索という、特に重要というわけでもない仕事だ。三日前に簡単な調査はしてあるので、危険もないだろうという話だ。俺としては物足りないが。
ハザードを連れて行く事にしたのは、洞窟というものはあまり日の当たらない場所だからだ。神殿長とリィンが遺跡探索に出かけてしまっているので任されてしまった。まあ、そろそろどんな仕事があるのかを教える必要もある。丁度いいだろう。セイも一緒だし。
ライトはこれから行く洞窟に住んでいたという盗賊の話を図書館員から聞いている、というか、聞かされているといった方が正確か。真面目なので、一応メモを取っているようだった。後ろからメモを覗いて、眉を顰める。字が汚いとかそういうのではなく、そもそも読めない。まず標準語じゃないだろう。多分、ライトの出身地方の文字だ。
「ハザード、日よけ準備した?」
「したよー」
「ナイフは?」
「もってる」
「水筒は?」
「すいとうー……あう……ないよ?」
「持ってない? それじゃ、もらいに行こっか。こっちだよ」
セイとハザードは連れ立って廊下を駆け回っている。相変わらず仲がいい。
同行者の三人を眺めて、ふと思う。この場合、俺が保護者という事になるんだろうか。
木々に囲まれて建つ白い建物は、質素なつくりをしていた。
「これが療養所か。思ったよりも質素だな」
「だって、療養所だよ。休む時くらい、ばれないようにひっそりと休みたいんじゃないか?」
「まあ、それはわかるが……」
この場所に建てた時点で『ばれないように』という目的は半ば達成されているような気もする。山の上に町はあるが、こちらにはなかなか降りては来ないだろう。周囲の村や町とは、それなりに距離がある。
扉に描かれた奇妙な図形を眺めながら、扉に手をかけた。だが、開かない。
「開けられないように術がかかってるみたいだね。ちょっと待ってて」
イルが手を翳すと掌から光が零れ、図形の形が変わった。同時に、扉から抵抗が消える。
「この図形が鍵代わり、という事なのか?」
「まあ、そういう事かな。早く行こう。自動で鍵がかかるようになってるから」
「へぇ……なかなか力の強い神殿長だったのか?」
「んー、これは理論さえしっかりしてればそれ程難しくないよ。うちの神殿でも、危険物の入ってる倉庫とかには同じような仕掛けをしてあるし。俺の部屋でも何箇所か使ってるよ」
こういう事に関して、こいつの言葉は当てにしない方がいい。こいつにとって簡単だからといって、他の奴も同じとは限らない。
扉を開いて、眉を顰めた。
「……何か変じゃないか?」
「あ、本当だ。何か変な力が働いてるみたいだね」
そう言いながら、のこのこと入っていく。このままこうしていても仕方ない、とそれに続いた。不思議な力を付与できるのは『神殿長』くらいのもので、そんな人物が危険な罠はそうそう仕掛けないだろう。多分。
扉が閉まった時、辺りが光に包まれた。
そろそろ松明がなければ視界に困る頃。空気がひやりとしている。不意に、ぴり、と奇妙な空気を感じた。
「……安全そうな場所って話だったけどな」
ライトがポツリと呟いた。セイはちょっと嫌そうな顔をしていて、ハザードはおろおろとしている。その頭をぽんぽんと軽く叩く。
「ま、本当に何もないかっていう念押しの調査だが……何かあったらあったでどうするかは決めてあっただろ? そう慌てんな。寧ろやりがいのある仕事になったと考えてみろ」
「なぁ……ブライト、不穏な空気になったからって必ずしも強い奴と戦うわけじゃないからな」
「……わかってるさ」
ライトに釘を刺されて、ちょっと目を泳がせた。内心、ちょっと期待はしているんだが。
「あ、何か不思議な音がする」
「へんな音だね」
セイとハザードが首を傾げた。俺にはわからないが、この二人は耳がいい。二人が聞こえているというのだから、何かあるのだろう。
「この先からか?」
「うん」
何にせよ、警戒はした方がいいだろう。ライトがひょいと追いついてきた。洞窟はそれ程広くないので、体格のいい人間が二人並ぶと狭く感じる。
「……俺が先行く。何かあったらすぐ帰れよ」
ライトがポツリと告げた。流石に異論がある。
「ここは年齢的に俺が行くべきだろ」
「いや何かあった時に、ブライトなら二人を強制的に腕力で止められるだろ」
「ああ、そうか」
お子様二人の内、セイは長身だしハザードは小柄な割りに腕力はそれなりだ。二人が全力で暴れたら、ライトじゃ辛いだろう。
「それに、学者と遺跡探索行く時は大体こんな感じだからな。俺が先頭で、仕掛けとかどうにかするから」
ライトは学者達と揉め事を起こす事がないから、よく学者達の探索に連行される。だから、この手の探索は慣れているのだろう。俺はどちらかというと盗賊の制圧とか、そういう野戦向きだ。
「……あいつの話だと、この先に広い空間があるらしいけど……」
「音の感じからして、多分その通りだと思うよ」
セイの声はよく響く。ハザードはきょろきょろしながら歩いていた。
二人の言葉通り、少し広い空間に出る。松明を掲げても全体を窺えない。奇妙な暗さだった。中に足を踏み入れ、明かりを様々な方向に向ける。一瞬だけ、光の反射が目にささった。
「……刃物か何かか?」
武器でも置きっ放しになっていたのだろうか。いや、流石に捜査に入った時にそれくらいはどうにかするだろう。
「そういえば、何か一つどうしても取り外せなくてそのままにしてあるものがあるって言ってたな」
ライトの呟きを聞きながら、光を反射したものがある方へ歩みを進める。松明を掲げると、それが鏡である事が分かった。岩壁に半ば埋め込まれているようだ。
「……鏡か……」
何故こんな所にあるのだろう。身なりを気にする盗賊というのもあまり聞かない。
「変な音、どこからだろう?」
セイが呟いた。そういえば、俺の耳にも何か奇妙な音が届いてきている。
他にめぼしいものもなく、鏡に足を向ける。ふちに装飾が施されているようだが、そのほとんどは埋まってしまっている。どうやって岩壁に埋め込んだのだろうか。
何気なく鏡を覗き込んだ時、ふっと光に包まれた。
<続く>
「リィン、久々に遺跡探索に行かない?」
「どこの遺跡だ?」
「ずっと昔の神殿長が神殿とは別に建物を創ったんだって。確か……療養所みたいな所だって話だけど。その時代の神殿長はかなり身体が弱い人だったみたい」
「お前に言われるほどなのか?」
尋ねるとイルは首を傾げた。
「俺は腕力とかはないけど、体はそこまで弱くない……と思うよ? たまに熱が出るけど」
「補正がかかってそれだろう? 充分弱いと思うが」
「あー……そういえば、神殿長になる前は結構よく熱とか出してたっけ。でも、その時代の神殿長はそれでも身体が弱かったんだから、相当だと思うよ」
それもそうか。或いは、こいつは無駄に『力』の有り余っている『神殿長』だから、他の神殿長と比べるのが間違っているのかもしれない。
「で、場所は?」
「この、山の麓。反対側にも探検できそうなところがあるんだけど、こっちは元盗賊のアジトの洞窟って話で、あんまり面白そうじゃないんだ」
「昔の神殿長の療養所とやらは面白いのか?」
「それがさ、その神殿長、結構謎が多い人なんだ。お墓がどこにあるのか見つかってないし、スノウさん達に聞いても魂の行方がわからないんだって」
それは、確かに面白そうではある。
「それで、療養中に書いた日記がその療養所に残ってるかもしれないんだ」
「日記か……いつも思うんだが、神殿長は日記をつけるのが義務なのか? それとも単に全員の趣味が一致しているだけか?」
まさか、日記を付ける習慣のある者が神殿長に選ばれる、なんて馬鹿げた事はないだろう。いくらこの世界が馬鹿げているとはいっても。
「多分、毎日退屈だからじゃない?」
「……日記が退屈しのぎになるか? そもそも、退屈な事しかないなら日記だって退屈なものになるだろう」
「そうじゃなくてさ。『神殿長ってそんなにいいものじゃないんだよ』って訴える為に書く、みたいな」
「……お前の場合はそうなのか?」
「まあね。でも他の人のを読んでても、結構悩みとか書いてあるよ。中には、最初は凄く喜んで神殿長をやっていたけど、段々月日が経って晩年になると毎日同じ三行の文章を残すだけになる人もいるし」
「それは読みたいところだな」
「最初から最後まで読もうと思うと、結構時間かかるよ」
それは承知している。何せ、数百年生きるとまで言われている『神殿長』の日記だ。さぞ読み応えがあるだろう。それに、一応は『一個人の』日記だ。読める者はごく限られている。神殿などという面倒な機関に所属しているのだから、それくらいのメリットがなければやっていけない。まあ、神殿の一員としてちゃんとやっているかと言われれば、答えは否であるわけだが。
「だが、何故急にその遺跡が気になったんだ?」
「んー……なんか、夢に出てきたんだよね」
「夢?」
「そう。こっちの、盗賊がいたっていう洞窟には三日前に行った事があるんだけど、その時から変な夢を見るんだよ。最初は山の上にある町にいて、『ああ、洞窟に行ったからその夢かな』って思ったんだけど、洞窟があった方とは反対の方に降りていったんだよ。そこで目が覚めて。次はその続きで山道を降りていて、白い建物が見えたところまで。で、今日起きる前に見た夢が、その建物に入る夢だったんだ」
「……なるほどな」
夢なんてものは、普通は大して当てになるようなものではない。だがこいつの場合は、少しばかり事情が違う。ただの夢、という事もあるが、こういう不自然な夢を見る場合は恐らく何かあるのだろう。
「……仕方ねえな。行くか」
「やった。あ、ハザードはどうする? 調査が長引くかもしれないけど」
「置いていく」
「……予想通りといえばそうだけど……まあ、ハザードにはちょっと合わないかもしれないし、やめた方がいいか。俺とリィンが調べ物してる間、じっとしてても退屈だろうし」
かといって、調査を手伝えるほど知識があるわけでもない。療養所がどれくらいの規模なのかは知らないが、広さによってはいるだけ邪魔だろう。いや、広さに関係なくいるだけ邪魔なのだが。
とりあえず、退屈しのぎはできそうだ。
荷物の確認をして、一息ついた。今日はハザードも連れての仕事になる。仕事といっても、昔盗賊のアジトとして使われていた洞窟の探索という、特に重要というわけでもない仕事だ。三日前に簡単な調査はしてあるので、危険もないだろうという話だ。俺としては物足りないが。
ハザードを連れて行く事にしたのは、洞窟というものはあまり日の当たらない場所だからだ。神殿長とリィンが遺跡探索に出かけてしまっているので任されてしまった。まあ、そろそろどんな仕事があるのかを教える必要もある。丁度いいだろう。セイも一緒だし。
ライトはこれから行く洞窟に住んでいたという盗賊の話を図書館員から聞いている、というか、聞かされているといった方が正確か。真面目なので、一応メモを取っているようだった。後ろからメモを覗いて、眉を顰める。字が汚いとかそういうのではなく、そもそも読めない。まず標準語じゃないだろう。多分、ライトの出身地方の文字だ。
「ハザード、日よけ準備した?」
「したよー」
「ナイフは?」
「もってる」
「水筒は?」
「すいとうー……あう……ないよ?」
「持ってない? それじゃ、もらいに行こっか。こっちだよ」
セイとハザードは連れ立って廊下を駆け回っている。相変わらず仲がいい。
同行者の三人を眺めて、ふと思う。この場合、俺が保護者という事になるんだろうか。
木々に囲まれて建つ白い建物は、質素なつくりをしていた。
「これが療養所か。思ったよりも質素だな」
「だって、療養所だよ。休む時くらい、ばれないようにひっそりと休みたいんじゃないか?」
「まあ、それはわかるが……」
この場所に建てた時点で『ばれないように』という目的は半ば達成されているような気もする。山の上に町はあるが、こちらにはなかなか降りては来ないだろう。周囲の村や町とは、それなりに距離がある。
扉に描かれた奇妙な図形を眺めながら、扉に手をかけた。だが、開かない。
「開けられないように術がかかってるみたいだね。ちょっと待ってて」
イルが手を翳すと掌から光が零れ、図形の形が変わった。同時に、扉から抵抗が消える。
「この図形が鍵代わり、という事なのか?」
「まあ、そういう事かな。早く行こう。自動で鍵がかかるようになってるから」
「へぇ……なかなか力の強い神殿長だったのか?」
「んー、これは理論さえしっかりしてればそれ程難しくないよ。うちの神殿でも、危険物の入ってる倉庫とかには同じような仕掛けをしてあるし。俺の部屋でも何箇所か使ってるよ」
こういう事に関して、こいつの言葉は当てにしない方がいい。こいつにとって簡単だからといって、他の奴も同じとは限らない。
扉を開いて、眉を顰めた。
「……何か変じゃないか?」
「あ、本当だ。何か変な力が働いてるみたいだね」
そう言いながら、のこのこと入っていく。このままこうしていても仕方ない、とそれに続いた。不思議な力を付与できるのは『神殿長』くらいのもので、そんな人物が危険な罠はそうそう仕掛けないだろう。多分。
扉が閉まった時、辺りが光に包まれた。
そろそろ松明がなければ視界に困る頃。空気がひやりとしている。不意に、ぴり、と奇妙な空気を感じた。
「……安全そうな場所って話だったけどな」
ライトがポツリと呟いた。セイはちょっと嫌そうな顔をしていて、ハザードはおろおろとしている。その頭をぽんぽんと軽く叩く。
「ま、本当に何もないかっていう念押しの調査だが……何かあったらあったでどうするかは決めてあっただろ? そう慌てんな。寧ろやりがいのある仕事になったと考えてみろ」
「なぁ……ブライト、不穏な空気になったからって必ずしも強い奴と戦うわけじゃないからな」
「……わかってるさ」
ライトに釘を刺されて、ちょっと目を泳がせた。内心、ちょっと期待はしているんだが。
「あ、何か不思議な音がする」
「へんな音だね」
セイとハザードが首を傾げた。俺にはわからないが、この二人は耳がいい。二人が聞こえているというのだから、何かあるのだろう。
「この先からか?」
「うん」
何にせよ、警戒はした方がいいだろう。ライトがひょいと追いついてきた。洞窟はそれ程広くないので、体格のいい人間が二人並ぶと狭く感じる。
「……俺が先行く。何かあったらすぐ帰れよ」
ライトがポツリと告げた。流石に異論がある。
「ここは年齢的に俺が行くべきだろ」
「いや何かあった時に、ブライトなら二人を強制的に腕力で止められるだろ」
「ああ、そうか」
お子様二人の内、セイは長身だしハザードは小柄な割りに腕力はそれなりだ。二人が全力で暴れたら、ライトじゃ辛いだろう。
「それに、学者と遺跡探索行く時は大体こんな感じだからな。俺が先頭で、仕掛けとかどうにかするから」
ライトは学者達と揉め事を起こす事がないから、よく学者達の探索に連行される。だから、この手の探索は慣れているのだろう。俺はどちらかというと盗賊の制圧とか、そういう野戦向きだ。
「……あいつの話だと、この先に広い空間があるらしいけど……」
「音の感じからして、多分その通りだと思うよ」
セイの声はよく響く。ハザードはきょろきょろしながら歩いていた。
二人の言葉通り、少し広い空間に出る。松明を掲げても全体を窺えない。奇妙な暗さだった。中に足を踏み入れ、明かりを様々な方向に向ける。一瞬だけ、光の反射が目にささった。
「……刃物か何かか?」
武器でも置きっ放しになっていたのだろうか。いや、流石に捜査に入った時にそれくらいはどうにかするだろう。
「そういえば、何か一つどうしても取り外せなくてそのままにしてあるものがあるって言ってたな」
ライトの呟きを聞きながら、光を反射したものがある方へ歩みを進める。松明を掲げると、それが鏡である事が分かった。岩壁に半ば埋め込まれているようだ。
「……鏡か……」
何故こんな所にあるのだろう。身なりを気にする盗賊というのもあまり聞かない。
「変な音、どこからだろう?」
セイが呟いた。そういえば、俺の耳にも何か奇妙な音が届いてきている。
他にめぼしいものもなく、鏡に足を向ける。ふちに装飾が施されているようだが、そのほとんどは埋まってしまっている。どうやって岩壁に埋め込んだのだろうか。
何気なく鏡を覗き込んだ時、ふっと光に包まれた。
<続く>
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